短編

□その願い事は
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さて、皆さん。
こんにちはの人も、こんばんはの人もお疲れ様です。
私、皇(すめらぎ)麗(れい)はただ今、ピンチです。
詳細は“お日様の匂い”をご覧になっていただければお分かりになると思いますが…





――お分かりいただけたでしょうか?
という経緯で、私は“音也くんのお願い”を前に緊張の面持ちで待機をしているわけでして――


『――麗(れい)?俺の話聞いてる?』

は!!危ない危ない。私は一体誰に話しかけているんだ。

「も、もちろん聞いてたよ!!……朝の約束のこと、だよね?」
『そう!それで俺、何がイイかずぅーっと考えてたんだけどね』

ゴクリっ

『耳かき、してくれる?』
「………耳かき、ですか??」
『そう!』

これは予想外の展開です。
音也は満面の笑みで耳かき棒を私に差し出した。

「でも私、耳かきって人にしたことってないんだけど」
『だいじょーぶだよっ』
「大丈夫って…。本当にそれだけでいいの?」
『いいよー。あ、それとも麗(れい)。俺がなんかやらしいことお願いすると思ったのー?』
「べ、別にそういうわけじゃないよ!」

…本当はそういうお願いをされるんじゃないかと身構えてはいたけど。
そんなことは言えるはずもなく、ニヤニヤする音也の視線を避けながら、私はリビングのソファに座る。

『ほ、ほら!耳かきするんでしょっ』
「うん!よろしくお願いしますっ」

音也はしゃぎながら私の膝の上に頭をコテンと乗せる。
耳かきをするということは、必然的に膝枕をすることになるんだよね。
普段しない体制に少し緊張しながらも、私は音也の左耳に手をかける――



「……痛くない??」
『うん。きもちーよ』

本当に気持ちがいいのか、少しうとうとしだす音也。
なんだか耳かきしている私も気持ちよくなってきた気が…と気を緩めてしまった瞬間に、耳かき棒を少し深くさしてしまった。

『いてっ』
「あ!ごめん!音也大丈夫っ??」
『んー。ちょっと痛かっただけだから大丈夫だよー』
「でも…」

音也は大丈夫というけれど、普段やっていないこともあって正直怖くなってしまった。
私がやっぱりやめようか、と言うと。

『初めてなんだからしょうがないよ。それをわかってて俺もお願いしたんだし、ね?』
「うん…」
『もぅ、君はほんとーに心配症だなぁ。そ・れ・に、お願いを聞いてもらう約束をしたんだからやってもらわないと!』

とこちらを見上げてくる音也の笑顔に根負けして、私は耳かきの続きを始めた。

「…じゃあ、次は右耳ね」
『はーい』

向こうを向いていた音也がこちらに顔を向ける。
音也の目の前に私のお腹が…。なんだかいろんな意味で恥ずかしいぞ。
私のそんな心境も知らず、音也は目を閉じてまた気持ちよくしている。
うん。音也って本当癒されるよね。
わんこが懐いてるっていうか、甘えてるっていうか。
それにしても普段の充実した日々とは違う、二人っきりの時間を大事にしたいなって思えるのは音也のおかげだね。
そんなことを考えていると思わず笑みが零れた。

「ふふ」
『んー?どうしたの?』
「何でもないよ。はいっ、耳かき終わりー」
『ありがとう麗(れい)。すっごい気持ちよかったよ!』
「どういたしまして。でも、これだけでいいの?あ。変な意味じゃなくて!」

一応誤解はされないように言っておく。

『はは!そうだなぁ。それじゃあ最後のお願い、聞いてくれる?』
「うん、どうぞ?」
『麗(れい)から俺にチューして欲しいなぁ』
「えっ?」

それはなかなか難易度が…って言うか、やらしいことお願いしないって言ったのに!

「それはちょっと…」
『ダメー?でも今日は俺の言うこと何でも聞いてくれるんだよね?麗(れい)からキスして欲しいな』
「うっ」

確かにそう言ったのは自分だけど。
でも私からキ、キスなんて今までしたことないのに。
自分から音也にキスするなんて想像しただけでも顔が熱くなってきた。
けど、さっき痛い思いもさせちゃったし…。

「わ、わかった!でも恥ずかしいから目、瞑っててくれる?」
『うんっ』

これまた満面の笑顔で返事をした音也は、起き上がると目を瞑って私がキスをするのを大人しく待っている。

「………」

大丈夫。軽く唇に触れるだけ。触れるだけ…。
そう思って音也の唇に自分のそれを近づけるんだけど。

――ごちんっ。

『いててっ。麗(れい)?今、おでこぶつかった??』
「いたた…。そのようです…」

もう何やってんのよ自分。キスなんて初めてするわけでもないのに!

『はは、あはははっ!あーもう、君ってほんっとに』
「な、何っ!?」

こんな失敗をしてしまった自分が一番恥ずかしいのに、そんなに笑わなくてもいいじゃない。
内心ふて腐れていると、音也はひとしきり笑った後に何故か苦笑いをする。

『可愛すぎるよ。あーあ。明日の仕事早いから今日はこれで我慢しようと思ってたんだけどな』



――そんなに意識されたら、期待に応えたくなっちゃうよね。



なんて、わんこが狼に豹変した姿に冷や汗をかく。

「お、音也くーん?」
『うん。決めた。やっぱり麗(れい)のこといただきます』
「え?ちょっ、待ってっ」
『だーめ。我慢なんてらしくないこと、するもんじゃないよね』

抵抗もむなしく、そのままソファーに押し倒される。


『覚悟してね。俺の可愛いお姫様』


結局そのまま、音也と朝まで過ごすことになりました。
まぁ、何をしていたかは言わずもがなです…。

















「ちょっと音也!!こんなに痕つけてどうするのよ!?」
『えー?だって麗(れい)に悪い虫が付かない様にちゃんと虫除けしとかなきゃって思ってさ♪』
「“思ってさ♪”じゃないわよ!このバカっ!」
『えへへ〜』







End♪
 

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