短編

□お日様の匂い
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♪麗(れい)Side

「ふ…ふあぁ〜…ん?」

今日は久しぶりの休日。
目を覚ますと隣には見慣れた赤い髪がぴょんぴょんと私の横で跳ねている。

「音也?…あぁ、そうか」

今日は音也も休みだっけ。
2人一緒のオフは久しぶりだ。
確か昨日の夜、仕事が終わってから音也がまっすぐうちに来たんだよね。
私も2週間ぶっ通しで仕事だったから、部屋に音也を迎え入れてから…。

「ダメだ。覚えてない…」

まぁ、ベットにいるって事はなんとか自力で寝室まで歩いてきたか。音也が運んでくれたのか。

「どちらにせよ、何で音也はちゃっかり人のベットで寝ているのか」

寝込みを襲うようなマネはしてないみたいだけど。
しかし、一度起き上がってみたものの、この2週間の疲れはまだ取れきっていないようだ。
睡魔が再び襲ってきたので、二度寝を決め込んでベットの中へもぐる。

「…音也も疲れてるんだよね」

自分で言うのもなんだが、隣でゴソゴソされたら起きてしまいそうなものだが。
音也はいまだ私の隣でスヤスヤと寝息を立てて寝ている。

「そういえば音也の寝顔見るのってはじめてかも」

こうやって一緒に朝を迎えるのは初めてではない。
なのに音也の寝顔を一度も見たことがないのは、彼は必ず私より後に寝ているし、起きるのも私より早いからだ。
私の寝顔を見られることはあっても、音也の寝顔は一度も見ることがなかった。

「こうして見ると音也の寝顔って意外と可愛いかも」

音也が起きていたら絶対にしないけど、くせっ毛の様に跳ねた赤い髪に指を絡めてみた。

「音也の髪ってふわふわ…。なんか気持ち良い」

何度か髪を指ですいていると、音也の肩がぴくりと動いた。

『んっ…』
「っ!」
『ん、ぅん…』
「…音也、寝てる?」
『すぅー、すぅー』

念のために声を掛けてみたが、返ってきた寝息に安心した私は、好奇心で向かい合ったままの音也の頭をそのまま自分に引き寄せた。

「んーっ。音也の髪ってお日様の匂いがする」

本当にそんな匂いがするわけではないのだが、不思議とそんな気がした。
音也の明るさや笑顔、言動がそんな幻想を抱かせるのか。
そのままもう一度、抱きしめてみようかと思っていたら――

『あのー、俺、そろそろ起きてもいいかな?』
「っ!?音也起きてたのっ?」
『んー。起きてたって言うか起こされた?なんて』

少し頬を染めながら頭をかく音也。
恥ずかしいっ!恥ずかしすぎるっ!

「な、なんで起きてるなら起きてるって言ってくれなかったのっ?」
『だってー、麗(れい)から俺に触ってきてくれる事なんて殆どないじゃん。折角だからいーっぱい触られとこうかなって思ってさ』
「それなら逆に寝たフリしててよっ」
『俺も最初はそのつもりだったよー?でもさ、』

麗(れい)が悪いんだよ?
まさか君から抱きしめてくれるなんてさ。
俺の理性が吹っ飛びそうだったんだ。

なんて事をさらっと言いやがるんだコイツは!!

「っ〜!この変態!ばか音也!朝っぱらから何考えて…っ」
『麗(れい)のこと』
「へ?」
『だってこの2週間まともに君に逢えなかったんだ。麗(れい)が足りない』
「なっ…」
『ホントは昨日だって麗(れい)といっぱいイチャイチャしたかったけどさ、疲れてたでしょ?まぁ。今日はずっと一緒にいられるしと思って我慢してたんだ』

さっきまでのふわふわのわんこの様な音也は何処へ行ったのやら。

『ね?いいでしょ?麗(れい)を充電させて』
「うっ///」

まずい。このままでは音也のペースにのまれてしまう!

「い、今はまだダメ!家の事だってやらなきゃいけないし、買い物にだって行きたいし!」
『そんなの後でもいいじゃん。俺は今、麗(れい)がほしい』
「ダ、ダメったらダメ!」
『やだ。もう我慢できない』

そういって顔を近づけてくる音也。
後もう少しで音也の唇に触れる寸前で、私はやけくそに叫んだ。

「わかった!全部の用事が済んだら音也の言う事なんでも聞くから!」
『…本当?』
「本当に!ちゃんと約束守るから!ね?」

すると音也は、“男の人の顔”からいつもの爽やか好青年の顔に戻った。

『うん!それならいいよ!それじゃあ時間がもったいないから早く起きよう!』

と、ベットから飛び降りた音也は、鼻歌を歌いながらリビングへ向かっていった。

「あの場を収める為とはいえ、色々と早まったような気がする…」

この日の夜、私は自分で自分の首を絞めてしまったと深く後悔したのは、また別のお話――






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