短編

□俺の大好物
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仕事が終わって楽屋に戻り、いつも通り携帯を確認する。
すると麗(れい)からメールが届いていた。

From:皇(すめらぎ)麗(れい)
To:一十木音也
――――――――――――
今日仕事が終わったらウチに来れる?
明日休みだって言ってたから…


――――――――――――

俺はメールを読み終えると、着信履歴から麗(れい)の名前を見つけ、すぐにコールした。

――プルルルル。

「はい。もしも…」
『もしもし!?』
「え?音也?」
『行くからっ!』
「へ?」
『今から行くから待っててね!』
「ちょっ!そんな急に…っ」

俺はそれだけ言うと電話を切り、すぐに麗(れい)の家へ向かった。
もちろんこのままでは外には出られない。
黒縁の眼鏡に(伊達だけど)キャップの帽子を深くかぶって。
スタジオの外に停まっていたタクシーに真っ先に乗り込んだ。





『はぁっはぁっはぁ…っ』

麗(れい)の家から少し離れた喫茶店の前で降ろしてもらって、俺はそこから全速力で走る。
はやく麗(れい)に逢いたい。
その想いが俺の走るスピードを加速させる。

『はぁはぁ…っ。着いたー…』

――ピンポーン。

息を整えて。あ。俺、髪ぐしゃぐしゃじゃない?
手櫛で髪を整えていたら、目の前の扉が開く。

「音也?思ったより早く着いたんだね」
『麗(れい)ーっ!!』
「わわっ」

俺を出迎えてくれた麗(れい)に思いっきり抱きついた。
麗(れい)は驚きながらも冷静に玄関の扉をしめる。
あれ?逢えて嬉しいのは俺だけ?
それでも俺は麗(れい)に逢えたことが嬉しくて、これでもかって言うくらいギュウギュウ抱きしめた。

『逢いたかったー!麗(れい)逢いたかったよー!』
「苦しいよ音也。それに3日前に会ったばかりでしょ?」
『それでも!どんなに仕事で忙しくても俺は毎日でも逢いたいもんっ』

はいはい。なんて言いながら、麗(れい)は俺の腕をほどいて部屋の中へ行ってしまった。
麗(れい)の後ろ姿からチラッと見えた耳が少し赤く見えたのは気のせいかな?
ちぇ。っと呟きながら俺も続いて中に入る。

『お邪魔しマース…ってあれ?麗(れい)何か作ってたの?』

そういうと麗(れい)の肩がピクッと動いた。
キッチンを覗けば、なにかを作っている途中のようだった。

「お、音也さ、仕事終わってまっすぐウチに来たんだよね?お風呂いれてあるから入ってきなよっ」
『ホントーっ?ありがとう!じゃあ早速お風呂借りてもいいかな?』
「う、うん」

俺も麗(れい)の前で汗臭いままは嫌だったしね。
わざわざお風呂入れててくれたなんて、本当に麗(れい)って優しいなぁ。
ゆっくりとお湯に浸かって、幸せを噛みしめる。
麗(れい)と一緒になれたら、これが日常になるのかなぁーなんて。
でも、それが現実になるのはまだまだ先になりそうだけど。

『麗(れい)ー!お風呂ありがとー!おかげですっきりしたよ』
「それならよかった。…ご飯も出来て、るんだけど」
『え?』

そういえば、お風呂から上がったときからイイ匂いがするなって思ってたんだよね。
しかもこの匂いって…。

『もしかしてカレー??』
「そう、だけど。食べる?」
『うん!』

ご飯を作ってくれてたことはさっきの様子で分かってたけど、まさか俺の大好物のカレーを作ってくれてたなんて!
カレーをリビングに持って来た麗(れい)とテーブルを挟んで向かい合わせに座る。

『んー!めっちゃイイ匂いっ。ね!食べていい?』
「ん。いいよ」
『いっただっきまーす!』
「いただきます」

麗(れい)の手料理を食べるのって実はこれが初めてなんだよねー。
だけど、マジで美味しい!今まで食べたカレーの中でも一番だよ!
麗(れい)って料理上手なんだねって言ったら、麗(れい)は恥ずかしそうに下を向いた。

「違うの」
『ん?』
「音也がカレーが好物だって、前に言ってたし」
『うん』
「確かに作る機会も今までなかったんだけど、もともと料理作るのすごい苦手だし」
『そうなんだ?でも本当に美味しいよ』
「だから、実はすごく練習してた」
『麗(れい)…』

自分にとっても満足のいくカレーが作れるようになったから、日ごろの労いも込めて今日、俺にカレーを食べさせたかったんだって!
あーもうっ!麗(れい)って本当、可愛すぎるよーっ!

『ありがとう!麗(れい)大好き!』
「どうしてこの流れでそうなるのかわかんないけどっ」

なんていう麗(れい)の顔は茹でタコみたいに赤くなっていた。

『俺さ、確かにカレーも好物だけどさ。実はもっと好きなものがあるんだ』
「??」
『麗(れい)』
「なっ!?///」
『へへっ。だからさ?』

――食後のデザートに君のこと頂いてもいいかな?

本当の大好物は、いつも俺の隣にいるんだよ。





End♪
 

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