□可愛いからしょうがない
1ページ/2ページ



「ねぇ、翔ちゃん」
『ん?』
「翔ちゃんは、女の子のどんなところにエロイズムを感じる?」
『………なに?』
「今の聞こえなかったのぉ?だーかーらー、女の子のどんなところに…」
『だぁーっ!聞こえてたっつの!そうじゃなくて、なんだその突拍子もない質問はっ!?』


俺と麗(れい)は今、屋上で昼飯を食べていた…はずだよな?


「次の課題曲の参考にしようと思って」
『そう…なのか?』
「うん。いつもは、翔ちゃんのイメージ通りの“元気”“楽しい”“可愛い”がテーマだったじゃない」
『おぃ。ちょっと待て。“可愛い”は違うだろっ』
「そこで今回はギャップを狙ったエロカッコイイ曲を創ろうと思って!」


……まぁでも、確かにいつもとは違う曲ってーのには興味があるな。


『でもよ、“カッコイイ”はいいけど、なんで“エロ”?』
「翔ちゃんわかってないなー!男の人はカッコよくなろうと努力すればなれるんだよ!でもエロ…所謂色気はその人の天性!才能なのですよ!翔ちゃんはその素質が有ると私は思ってる!」
『そ、そうか?』
「とゆーわけで、作曲にリアリティを出すため、参考に翔ちゃんの話を聞いてみよっか!ね!」


と、凄い剣幕で詰め寄る麗(れい)に俺は多少の恐怖を感じた。


『…っ。てかなんで俺の、その…ソレを言わなくちゃいけないんだよ?』
「もー。翔ちゃんはすぐに顔が赤くなるね!そんなトコが初っぽいね!」
『初っぽいってなんだ!お前は少し恥じらいってもんを持てよ!』
「へへん!そんなもの持ってたら作曲家にはなれませんっ」
『んな、胸はって威張んな!』


はぁ…。本当にコイツに口で勝てる気がしねぇ。
誰が助けてくれよマジで。

そう心の中でぼやいていると、屋上の扉が開いた。
天のお助けか!、と顔をあげるがそこに居た人物に俺は肩を落とした。


『あっ!翔ちゃーん。ここに居たんですねぇ』
「なっちゃん!どうしたの??」
『翔ちゃんに着せたい服が通販で届いたので持ってきたんですよー』
『うげっ』


そう言って俺の目の前に出されは服は、ピンクをベースにしたワンピースに真っ白なフリルがいたるところに使われていた。スカートの部分もまるでドレスの様にフワッとしていて、イメージはお姫様、といったところか。



『那月てめぇ!またくだらないもの買いやがって!』

『くだらなくないです!翔ちゃんを可愛くする為ですから!』
『んなことに労力を惜しむなぁ!!』


天のお助けどころか、最終兵器を投入された気分だ。
すると、俺達のやり取りを見ていた麗(れい)は真剣な眼差しで俺を見つめてくる。


『な、なんだよ』
「翔ちゃん、それ。着てみようか」
『はあぁぁぁ!?』
『わぁーい。お着替えしましょう!』


身の危険を感じた俺は脱兎の如く逃げようと立ち上がったが…


「なっちゃん!翔ちゃんが逃げようとしてる!捕まえて!」
『ラジャーです!』

―ガバっ!!

『ぅおっ!おいこら那月っ。重いーっ!はーなーせーっ!!』
『嫌です。離しませんっ』


那月に押し潰され、いとも簡単に捕まってしまった…。


「でかしたなっちゃん!…さぁて。逃げようとした翔ちゃんには罰として」
『罰って…。元々、その服着せるつもりだったろうが!』
「当たり前じゃん。それは罰じゃありません」
『マジか…』
「うーん。…うん!翔子ちゃん撮影会をしようと思います!」
『な、に?』


嫌な予感に冷や汗が出てきた。
いや、さっきから冷や汗しか出てきていないのだが。


「てなわけで、場所を移動しようと思います」
『何処にいきますかぁ?』
「ここはやはり…レコーディングルームで!」
『了解です!』
『“了解です”じゃねー!俺を離せっ!降ろせぇぇーっ!!』


俺の叫びは昼休みの終了を告げるチャイムにかき消されていった―…





「さぁ、翔ちゃん。これから楽しいお着替えの始まりですよ?」
『全っ然楽しくねーよ!!』
『翔ちゃん可愛くなりますよぉ』
『だから、なりたくなんかねぇっつの!!』


つーか俺は今日、何回叫ばなきゃいけないんだよ。
喉潰す気かコイツらは。
麗(れい)に那月が加わったら最強タッグだろ。勝てるわけねぇじゃん。


「ん?翔ちゃん、急に大人しくなったね?」
『もう好きにしてくれ…。俺の負けだよ』


それに撮影会ったって、どうせ直ぐに終わんだろ。
そう、たかをくくっていた俺はこの判断を後に後悔することになるのだった―…。














「てなわけで、来栖翔子ちゃんの登場でーす」
『翔ちゃん可愛いですっ!可愛すぎます!このまま食べちゃいたいです―っ』
『う゛っ。ぐ、ぐるじぃ…っ』

俺は那月が持ってきた服に着替え、更にご丁寧に用意されていたロン毛のカツラを装着した。
那月は相変わらず力加減もせずに抱き締めてくるもんだから、身体の骨がミシミシと音を立てている。


『な、つき…っ。いい加減に…離しやがれっ!!』
『あぁ…』
『はぁ、はぁ…はぁっ』


なんとか那月の腕から逃れた俺は肩で息をしながら距離を取る。てか、なに残念そうな顔をしてるんだ!バカ那月!
しかし、そんな俺の背後にいつの間にか麗(れい)が立っていた。


『っ!?お前、いつの間に!』
「翔ちゃん本当に可愛いっ!ココまで来たらもう奇跡だよ!本当に男の娘って存在するんだね!私もギュッてするっ」
『なっ!なななな何してんだよっ!?///』
「?何照れてんの?今は女の子同士なんだから照れる必要なくない?」
『はぁっ?そういう問題じゃねぇって!』


那月はずっとデジカメで人の事撮ってやがるし!
それに背中に麗(れい)のむ、胸が…っ。てか、さり気に俺が胸触られてんだけどっ!!


『ちょっ…お前っ。どこ触ってっ』
「んー。翔子ちゃんのおっぱい?」
『なんで疑問系なんだよっ。止めろって…っ』
「あれー?翔子ちゃん、もしかして服の上から触られて感じてるの?」
『っ!!』


…否定はできない、が。このままされるがままでいるわけにもいかない俺は、麗(れい)の腕を振り払った。


「なっ!?翔子ちゃんひどいっ!もー怒ったもんねっ。ねぇ、なっちゃん!」
『はい』
「翔子ちゃんをそこに押し倒したら、そのまま腕を押さえてて!」
『わかりましたぁ』
『わっ!』


那月は俺を押し倒すと、腕を押さえたまま頭の方に移動する。馬鹿力の那月の腕力にどれだけ暴れても腕はほどけない。
その隙に麗(れい)は、俺の上に馬乗りになって見下ろしてきた。


『な、何する気だよ…』
「さぁて、なんでしょう?」


目が笑ってねーんだけど…。
ふふふと言いながら麗(れい)は、ワンピースの裾を捲り、俺の太股に手を伸ばしてきた。


「わぁ、翔子ちゃんって肌すべすべだねー」
『やめ…っ』
「頬も赤くしちゃって。息、あがってるよ?」
『…っ』
「必死に堪える姿とか…本当に可愛いね。私、女の子犯す趣味ないんだけどなぁ」


くっそぅ。今すぐ逃げ出したいけど、まさか女を蹴り飛ばすわけにもいかねぇし。


「ねぇ、翔ちゃん。私のエロイズム教えてあげようか?」
『っ…、んだよ』
「翔ちゃんがそうやって、瞳を潤ませて、頬を赤くして、睨んで見つめてくるのが凄い好き。もっと苛めたくなってムラムラしちゃうんだよねぇ」


変態かコイツはっ!!
…でも“好き”と言う言葉に思わず俺の心臓が跳ねた。


「ふふ。翔ちゃんさっきよりも顔、赤くなってる」
『う、うるせぇ、よっ』
「素直じゃないなぁ。ね、なっちゃん。翔ちゃん顔赤いよねぇ?」
『えぇ。リンゴさんみたいに真っ赤で食べちゃいたいです』
「食えるかよっ」
『ふーん。それじゃあなっちゃん。そのデジカメで翔ちゃんの表情を撮ってくれる?後で今の翔ちゃんがどんな顔をしているのか教えてあげるね』


そう言うと麗(れい)は、ワンピースのスカートを上まで捲り、俺の露になった下半身へ手を伸ばしてきた。


『ちょっ!本当に何する気だよっ!?』
「下着は女の子のじゃないんだね。残念」
『何がだよっ!』
「あっれぇ?翔ちゃんのココ、すこーしお山になってるんじゃない?」
『っ!!?』


麗(れい)は俺のソレを下着の上からツーっと下から上へ撫で上げる。

正直言って、俺は感じていた。

でも仕方ないだろ!俺だって思春期真っ盛りなんだよ!
こんな変態みたいな格好をさせられてても感じるもんは感じるっつの!
つか、那月のバカ正直はいつまで写真撮ってんだぁぁ!!


『翔ちゃん…可愛いです』


ってお前も何、ウットリした目してんだよっ!


「ほんっと、食べちゃいたいよねぇ」
『おま、えも…いい加減にっ』
「翔ちゃんの唇も美味しそ…………はっ!!」


俺の唇と麗(れい)の唇があと数センチで触れると言うところで、麗(れい)が急に声をあげた。


『麗(れい)ちゃん。どうしました?』
「今!次の課題曲のインスピレーションがきた!」
『………は?』
「とゆーわけで、私はこれを譜面に書き起こすので、先に戻るね!」
『なっ…ちょ…っ』


我急げと言わんばかりに慌ただしくレコーディングルームを出ていってしまった麗(れい)。
流石の那月も呆然としていたらしく、残された二人の間には何とも言えない複雑な空気が流れていた。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ