ちとくら

□クリスマスには雪を。
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[千歳なんか知らん!!]


そう言われて、クリスマスを迎える。

あの言葉の原因を探っても
答えは見つからない。





蔵のために空けていた予定も
今更埋めることはできなくて。
でも何もしないでいると
考えてしまうから。

仕方なくケーキ売りのバイト入れた。




寒い中、街行く人にケーキ売って
サンタの格好で夢届けて。

自分も幸せじゃないのに、
何を届けるんだろう。




誤魔化すように
大声でケーキを売り込む。


「クリスマスケーキいかがですかー?」

標準語。
サンタっぽいかもしれない。


でも、蔵が言ってくれた
千歳らしいな
その言葉が胸の奥染みて
とれそうにない。





クリスマスプレゼント、
用意してあった。

お揃いのリング。
蔵が気に入りそうなの選んだ。




だけど、使われないまま眠る。
そう思うと
俺に買われて不幸だな
と思ってしまう。






「わぁッ!」

ケーキを片手に声をあげる人々。
「雪だ…!」





白い雨が肌に触れる。
冷たくて、冷たくて。


体温を奪っていく。




「最悪じゃ…。」
「何がや?」


同じサンタ姿の人が言った。
雪が降って嬉しそうだ。


「兄ちゃん、
きれぇな顔しとんのに、彼女おらんの?」


「彼女…、
クリスマス直前に
知らん、言われてもうて…。」
「さよか、さよか!」




笑い事にされても、困る。

蔵は今、誰と?




「会いたくないん?」
「会いとう……です。」

そう言うとその人は一際大きく
宣伝し始めた。




「クリスマスケーキやでぇ!
買ってきー!
今なら3割引きや!」

いきなり何を言い出すのかと思い
様子を見ていると

こちらを見て微笑んだ。


「全部売れたら仕事終わりや。」
「えっ…。」



俺の、ために。
こんなによくしてくれるなんて。

―そこからは戦いだった。

残り10、8、5…。




「あと1つ…。」
「せやけど今日はもう11時や。
客もけえへんよ。」


深いため息。
蔵に会いに行くのも諦めて。


その人は最後のケーキを
手提げ袋に入れた。


「俺が買うた!」
「えっ…、」

「彼女に持っていき。
機嫌直るかもしれへんで。」




言葉にならずに、
サンタ帽を慌ててとって頭を下げた。




「えぇから早よせんと!」


照れ臭そうに笑いながら
ケーキを差し出すと、
俺は服を着替えてチャリをこぎ出した。

一度家に。
プレゼントを。


それから、蔵のもとへ。











冷たい雪をかきわけながら。
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