ちとくら

□your face
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背伸びしてもなかなか
まっすぐ見えなくて。



見ようとしなくて。






「白石。」
「なんや?」


―そして、ついに見なくなった。



気付かないフリしてた。










千歳が隣のクラスの女子に
コクられたらしい。
そして、返事は保留しているらしい。



そんなこと今聞いた。
しかも謙也に。


「言うてええのかわからんけど、
お前ら大丈夫なんか?」




息が苦しい。
なんて悪い空気だろう。


千歳が抱き締めてくれた、
あの匂いが思い出せない。






俺は今も好きなのに。








「…今日の帰り、待ってみるわ。」

「おん、頑張れや!」




謙也の熱さも虚しくもう冬で。
マフラーだけが温める。


帰り道、
千歳がいつも通る自販機の前。




冷たい手を擦りながら待つ。

半分諦めてて、
半分期待して。



「……じゃ………、ほんこつ…。」


千歳の声が聞こえて顔をあげる。

そして
あわてて自販機の陰に隠れた。





女の子。
千歳のマフラー。





あぁ、なんや。
もう俺とは終わっとるやん。





見ていたくない。



通りすぎていく二人。

「アホらし…。」



自販機にもたれかかって
片手で顔を覆う。


「白石?」
「ッ!…………千歳。」




声をかけられると
目の前には千歳がいた。


「もしかしたら白石かの、思うて駆けつけたばい。」

俺の身長にあわせて
かがんでくれている。



こいつ、こんな顔やったんな。





「なした?」
「お前、彼女は…?」

「……?

、あ。さっきんか?
送ってあげただけじゃ。」





微笑む千歳に言い返せなくなる。





「白石。」

千歳の指が俺の髪に絡む。

「妬いてくれとった?」
「………おん。」





ふわっと千歳の香りがした。
唇が重なる。



「こんな本気の顔、
白石の前以外でせんよ。」


「………せやな。」









久しぶりに見た。
その顔は、想像してたより
かっこよくて真面目で。







…―俺が惚れた顔だった。

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