謙光

□白い、雪を。
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ショーウインドーを眺める、
ひとつ年上の先輩を見かけた。


マフラーにカバンを背負い、
いかにもオフなテニス部。
久々の放課後にショッピング。
おしゃれなその人には
ぴったりだった。




謙也さん、と声をかけようとして
言葉を抑え込む。





なんといったって
女物の雑貨店なのだ。

クリスマスプレゼント用の
アクセサリーなどがきらめく。



誰の為に選んでいるのだろう、
なんて思いながら。





しばらく眺めていると
決心したように店に入っていく。




どれだけの勇気だろう。
男一人で入っていくなんて。

しかも、四天宝寺のテニス部が。





なんとなく気になって
出てくるまで待ってみる。

「お、なんや。
自分もここで買い物か?」


違います、なんて言ったら
言い訳が他にないので
黙っておく。




「あ、せや。これ。」



そう言って渡されたのは
可愛いラッピングの物。


「今、買うたヤツ。
クリスマスまで持ってるのも
なんやから。」

「えっ、ほなこれ買うために
この店入ったんですか。」





一瞬にして頬が染まる。
さっきまでの先輩としての威厳は
どこへいったんだ。



「当たり前やん。」

「……意味わからんわ…。」




「喜ぶ顔見たかったんや。」


うつむきながら言う
その頬はどんどん赤みを増して。



「……開けてもええですか?」
「もちろんや。」


赤いリボンをほどいて
ラッピングを丁寧に開けていく。

そして、きらめく。



雪のモチーフのネックレス。
可愛いデザインには
LOVE、と彫ってある。

「女物やけど、
自分なら首につける以外にも
おしゃれに使ってくれるかなぁ
思うて。」




そう言っていても
つけてほしいんやなぁ
と伝わってくる。


手を後ろにまわし、つける。
短めの洒落たデザイン。


謙也さんらしいわぁ
なんて思いながら。






「似合うてます?」
「もちろんや!!」


にっと笑うその人は満足そうで。

俺も思わず笑って。



「おおきにっすわ。」

「なんかお返しくれへんの?」




今思い出したように
手を差し出す謙也さんに一言。


「まだクリスマスちゃいます。」

「せやけどなぁ〜。」



そんな風にわざとらしく
落ち込んで見せるから


近寄って触れるだけのキスをする。




「これでええやろ。」

「、……勘弁したる。」










こんな調子で、




実はクリスマスより
その前の時の方が

毎年楽しみだったりして。


これからも、少なくとも。








「勇気ありましたね。」
「………のためやもん。」


「えっ、
きこえへん。」




「………………阿呆。」




案外、
クリスマスなんてものも
いいかもしれない。


そう思った。

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