謙光

□ハロウィンくらい
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お。
珍しいモノもっとるやんけ。




目の前にはクッキーをたくさん持っている財前光。
そこで俺はひらめいた。

いつもなら貰えないはずのクッキーが今日は必ず貰えるじゃないか。




「光くーん、」
「、小春先輩。」

「とりっくおあとりーとッ!」


お、先を越されてもうた。
おとなしくクッキーを差し出すのを見届けると俺は近付く。



「財前!」
「謙也さん、」

「トリックオアトリート!」
「………。」

そう言っても何の反応もない。

仕方なく切り出す。



「あの…財前君?
無視は酷いんとちゃう?」

「無視してませんわ。」





無視してない、
お菓子くれない。


……嘘やん、
もしかして―





「俺、単純やで?」
「知っとるっちゅーねん。」

「イタズラやぞ?」
「………、」




照れた顔が肯定を示した。
あぁもう。

可愛いわぁ…。


「こっ、このクッキー、
俺んやし!」

焦った言い訳も可愛い。
急いで口に入れるのも可愛い。



うつむくソイツの顔に手を添えて
口づけを。

奪い取るように舌を絡める。


甘い、甘い、クッキー。






「……美味しいやんけ。」
「マズイなんて言ってな、」


またしても口を塞ぐ。

ひとつ、またひとつ、
噛みしめて。





ここで調子に乗ると
きっとうるさいだろうから

イタズラはこのくらいで
勘弁してあげようか。



「謙也さん、」
「おん?」


「トリックオアトリート、」



あ。

痛いところを。


「ないんですか?」


悪魔の微笑みが近付いてくる。

先ほどまで優位に立っていたのに。




「……甘いもんならなんでもええか?」

「え、まぁええですよ。」



勝ち誇った笑みに微笑み返す。




「ほんなら、俺の甘いキス。」

ちゅ、と触れるだけのキス。
物足りない。

財前は赤くなるばかりで。



まったく、可愛いヤツだ。




「謙也さんは意地悪や。」

物足りないのはきっと一緒で。





俺は拗ねたソイツに
お菓子より甘い口付けをするんだ。


バサッ

持っていたクッキーを
―落としてしまうくらいの。

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