謙光

□お名前がお好き?
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「財前ー。」


少し目の前を歩いていた後輩に
声をかけてみる。

だが振り返らない。

(っかしぃーわぁ…。)




「どうしたのっ?謙也くーん。」

「おぉ小春!
光やと思うねんけどな、
振り向いてくれへんねん。」


前方に目をやる。
(あれで財前光やなかったらソックリ大賞出れるわ!)


「光くぅーん!」
しかし小春が声をかければ

「なんですのん?」

素直に振り向くわけで。





(っかしぃーわぁ…。)







「特に用はないんやけど、
光君見つけたからっ。」
「キモいっすわ…。」


そう言って去っていく。

小春は微笑む。



「わかっちゃったわぁ…。」
「嫌われてるとかいうんはやめてや!?」

「恋人にそれはないやろ…。」



そう。
財前光は恋人。



(この扱いの酷さはなんや?)




「財前、やろねぇ。」
「は?」

「私達に向かって言うときは光。」



「呼び方の問題かぁ?」
「バカにしちゃあきませんよ。」


小春は真剣な表情で言った。
その通りだ。




「そないなこと言われても…、
恥ずかしいやんけ。」



(部員の前でなら言える。
けど、
光の前でそないなことを?)




小春は微笑んだ。



「待ってるんや、光君は。」




「謙也さん、」
「噂をすれば、ね。じゃ。」


「えっちょおい!小春!!」



去っていく小春に二人、
取り残されると光が言った。





「夫の方にここに行けっていわれたんやけど。」
「夫、ってユウジか!」




小春の頭を侮っちゃいけない。
二人ではめたのだろう。



「何か用ですか?」

いかにも面倒臭そうに言う光に
わざとらしく言ってみる。



「……あんな、…光?」

「ッ……。」



あ、
耳。
頬。


そっぽ向いた。



赤い赤い。



(正解、当ててもうた…。)


こっちまで恥ずかしくなる。



「やっと呼んでくれ、」

場所なんて気にしてない。
ただ、可愛かったから。
ぎゅってしたかったから。


それに、
この時ばかりは光の毒舌も
なかったから。






「光。」
「………なんですか。」


「好きやで。」
「……阿呆。」




知っとるで。
きゅっと握る手が強くなったのも。


ちっちゃく、



「…………………俺もや。」
なんてこぼしたのも。












駄々をこねた王子様は
―お名前がお好き。

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