弟俺

□sheep
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「あ、あの、

上杉さん。」

「ん?なんや?」


「えっと…。」
「ん?」








「………なんでもないです。」



これで何度になる?
言えない言葉は
「君が好き」
というメジャーな響き。




「いつも生意気やのに
どないした?」
「〜なんでもないです!」





あいにく二人は
話題が豊富で
肝心なことに触れられない。


「なんかあったんか?」


「バッティングの調子が
すぐれないだけです!」


そんなこと言って、
言い逃れして
新しい季節がくる。

夏が来ても
冬が来ても

加熱するこの想い。


「そんな風に
見えへんけどなぁ…。」



高まる鼓動を
ひた隠すために
大切な勇気を消費する。


「…見えないだけです。」




keep on lovin'you.


真夜中にしたためた
ラブレターのように。




「おかしな奴やなぁ。」



言えたなら
今頃は世界のキングにも
なってるさ。





(どうすればいんだよ…。)



背中押す風も吹かない。




一瞬一瞬、
止まって見えて。


まつげの長さ。
筋肉の動き。



カッコいいんだ、
本当に。







そして、大きい。
存在が。



目の前に高く、
そびえ立つ壁は

越えられない防波堤。





それに比べて
俺は、小さい。




こんな自分に
愛想尽きて
動き出せなくなる前に。






俺も男だ。
試合で勝つんだ。


大袈裟に奮い立たせよう。






「上杉さん!」

「なんや。」






今言おう。


もう引かない。





「ちょっと、


聞いてもらえますか。」




敗北知るのもいいだろう。






「ええで。」


おちゃらけた
この人と
もう普通に話せなくなるかも。




それでも
固まった決意に
後押しされた。




俺はもう迷うことはない。




「上杉さんが、好きです。」




びっくりされた。


そりゃそうだ。






だって俺は男で。



「すいませ、」
「俺もや…。」



「は?」
「夢みたいや…。」






上杉さんは
聞く耳持たない。


「何言って…、」
「せやから、
俺もやねん!」


そう言って笑ってる
君を今抱きしめたい。




「嬉しいです…。」






心から好きです。








もう一度、
その笑顔をここで見せて。

ずっと傍で。

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