島準

□時雨月
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雪が少し降っていた。
気に止めるほどの冷たさじゃなくて
視界にすんなりとどまるほどの。




まるで、感情を表していた。







「ながい人生において。」

そんな話を唐突にした。





ぽつり。


「俺はお前に恋した。」






大人びたことを話す慎吾さんは
やはり先輩で遠い。


「それって、運命だろ?」

はにかんだ風に言うと
前を向き直りまた歩き出す。



「……もう、卒業ですね。」


季節が巡り、春がやってきて。

俺とは離れて、遠くなる。




「準太のこと、忘れねぇから。」




「……はい。」



涙だけ必死にこらえて。




最後の帰り道。
二人、そっと近付いて。





「準太。」

「さようなら。」






何か言われる前に言わないと
また揺らぎそうだったから。



言いたげな瞳背中におさめて
逆方向に歩き出す。






雪が舞う。
ひとつの傘が切ない。





まだ君が好きだから。








素直に受け止められなくて。


ふと足をとめて、
振り返ればまだそこにいて。






もう一度微笑んでくれたなら。



ぽつり。






あなたを追いかけずにすんだのに、









「慎吾さん!」



永遠なんてなくていい。
ただ、この時だけ止めていて。




「俺…まだ……!」


「準太のことが好きだ。」






今伝えたくて。
雪が視界霞めても。



「俺も好きです。」



精一杯の笑顔。
ちゃんと笑えただろうか。





慎吾さんの笑顔、
ちゃんと引き出せただろうか。





「……じゃあ。」




終われそうで。





ぽつり。









雨に似た、ようなもの。











温もり残した。


あれはきっと時雨月─……

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