島準

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「あいしてる。」

めぐりめぐる
記憶の中の慎吾さんを

ひとつずつ、辿る。



俺の探す全てになった。




剥がれ落ちる心が
知っていた、
この感情。



「俺もっす。」



この広い空の下、
身を寄せあってく。



慎吾さんの真剣な目。


俺は見つめ返すだけ。




慎吾さんの頼もしい手のひら。


努力の賜物。





勝ってあげられなかった。

エースだったのに。




先輩からレギュラー
ぶんどったのに。






この手は暖かい。
春のような手だ。



この手で
もう

俺と野球をすることはない。



早かった。
あの試合が流れた。





俺はこの時の流れの中で
何を手にしたんだろう。



温もりや、
優しさ。


厳しさにつらさ。




たくさん
この人から学んだ。
俺は生かせなかったんだ。

この経験達を。





窓ガラスが泣いている。


雲が風に流されている。
終着はどこだろう。



きっと
俺もまた、
ゴールを探して

たどり着けないんだろう。



あるがままで生きようと
するあまりそれさえも

見えない。




あの時、あの場所の
慎吾さんを思い出す。



「準太?」


今と変わらない
あの瞳で。


「どうしたんだよ、
泣きそうな顔して。」


心が、
剥がれていく。



「いえ…。」



愛してる。




その言葉が少し前から
変わり出した。




「んだよ?」

そう言って
心配そうに眉をひそめるから

またおごってしまう。



独りよがりの愛情は
君に
届かずにさ迷っている。




ここにいるはずの
慎吾さんが遠くて。




行き場のないこの苛立ちだけ
投げた。


めぐりめぐる、
君は迷う。


俺にとって足りないもの。




心が痛み出す前に。
締め付ける空の色と
君の涙だけ。

脳裏に焼き付いたまま

消えそうにない。




泣いていた。

膝を折り曲げて
泣いていた。



声もかけられなかった。





ただ今は違う。


君に触れ
君を抱き
ぬくもりや呼吸を感じ
二人の愛
答え知り、
手にしたと信じてた。





「慎吾さん、」
「ん?」



「どうして俺を
責めないんですか?」




だけど今、
君の中。




苦しみや悲しみに
触れてしまった、
気付いてしまった。


慎吾さんは
俺を投手として見てる。


俺はそれを

恐れていたんだ、
と気付く。



「責める?お前を?」



めぐりめぐる、
あの日を辿る。


「誰もお前を責めないよ。

負けたのは
全員のせいだ。



そんなんで
元気なくすな、
嫌われたかと思うだろ?」



「でも…、」



「俺が違うってんの。

それでいいだろォが。」


抱き締められた
その温もりが
ここにいることを示す。


誤解だった、とわかる。
慎吾さんの瞳は
投手として接した時より
優しい。

きっと、俺の為。


多分、二人の想いのすれ違いは
まだまだたくさんある。

すべて集めてみよう、
何か起こるかもしれない。
春の日差しの中で。


そしてここに
二人で咲かせよう。


名も知らぬ花でもいい。



枯れぬように
優しく包んで


ずっと咲かせる。



「愛してるよ。」

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