ハルアベ

□離れたくなかった
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「隆也!」

「なんすか、」
ファミレスの店内でそんな返答はいつも通りで、
「元希さん。」
なんて言うと自分から話しかけたくせに上機嫌で席を離れていく。


今日はシニアのメンバーで勉強会。
珍しく勉強しているのも、監督の指示である。

「…最近さ、」
と、隣のやつが話しかけてくる。

「丸くなったよな。」


「そうかぁ?」
思わず声が大きくなったから、また元希さんがこっちを見て目を丸くした。

「おっと、わり。」


「元希さんは、もちょっと前は話しかけんのも勇気いったよ、」
「今も充分ワガママじゃねえか?」

ペンを走らせながら、淡々と答える。

「そこじゃねえよ、打ち解けたなって意味。」

それから、「よかったじゃん?」と言い残してイヤフォンを耳にかけた。
俺の感想は無視かよ、と思いつつようやくわかった。
聞かなくてもわかっていたのだろう。


元希さんをちらっと見ると、勉強に飽きてペン回しをしている元希さんと目が合った。

そしておもむろに携帯を取り出すと誰かに電話をかけ始めた。
店内とはいえ、二つも離れたテーブル。

この距離で、俺の携帯がうなった。

電話に応答すると
「今日一緒に帰るぞ。」
そう一言。

命令系なのがまたむかついたけど元希さんらしい。

「わかりました。」



最近丸くなったよな──…

もしかしたら俺のことだったのかもしれない。



「元希さん、」
「あ?」

顔を見ながら電話ってなんかおかしい感じする。
少し恥ずかしい。


「俺、もっとうまくなりますから。」
真顔でそう伝えると、

なぜか元希さんは笑って

「待っててやるよ。」




そう答えて電話を切った。
俺は、この人の球が捕れる。



この人の球を捕る。

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