ハルアベ

□answer
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行くな。




行かないでくれ。











あの日、


地下鉄の改札で
急に咳が出て
涙にじんで止まらなくなった。




別れ際に微笑む君が、
美しいはずなのに
どうしようもなく哀しくなった。






「別れましょう。」



隆也はいきなり言った。


久しぶりに休日を二人で過ごした最後に。
俺は驚きなんて追いつかなくて、
ただただ奴を見つめた。


まっすぐな瞳。
姿勢、態度。



あぁ、俺はこんなまっすぐな奴に惚れて、


フラれるのか。





「俺のこと嫌いになったのかよ。」



「…俺は。」

「もういいっ!」




聞いても意志は変わらない。

わかっていたよ。
お前の気持ち。


なんとなくだけど
今日のお前いつもと違ったし。





お前と過ごした今日の時間。



嘘、みたいだね。


もう帰る時間だよ。





「…これ。」

プレゼントした腕時計。
俺は受け取ると自分の分を外した。

そしてポケットに乱暴にしまい込む。



浮かれてつけていた
お揃いのネックレスを隆也に握らせた。





体温。




手をギュッと
惜しむように握ると
奴は困ったように
少しの力で握り返した。




愛という

窮屈な孤独を
ガムシャラに抱きしめた。





「さよなら…元希さん。」


「じゃあな。」




隆也は改札へと入って行く。





「これ以上…我慢できなくなっちまう。…元希さん。アンタに会いたくなっちまうんだよ…!だから…仕方ないんだ…。」


隆也は涙ながらに語った。


確かに二人は
会える日が少ないから
別れ際にいつもため息ばかりだった。

「元希さん…!」

「もう何も言うな…!」


涙でにじむ景色の中で一人を見つめた。



そして
愛という窮屈を


いつまでも抱きしめるんだ。



まだまだ思い出は少ないはずなのに
どうしよう。


もうこんなに
隆也でいっぱいだ。




「カッコイイ先輩のまま…見送らせろよ…。」


そう言うと

まっすぐに前を見て
歩いていく。



俺は本当にコイツが好きなんだと実感する。
だって

今こんなにつらい。




春も夏も秋も冬も。


一緒にいたい。
ずっと、ずっと。



二人でなら
歩いていける。




俺にはお前がいないとダメみたいだね。





見えなくなりそうになって


急に体が動き出す。







あの日、


地下鉄の改札で


急に咳が出て




涙にじんで止まらなくなって。





てすりを越えて


君を










抱きしめた。

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