ハルアベ

□ベアーズ
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試合観戦中、
ライトが平凡なフライを


見事に落っことした。

9回ツーアウト、満塁。


2対0の試合が
にわかに動き出す。


サードランナーが
本塁を踏む。



勝ちを意識していた、
相手側のベンチが
焦れば焦るほど
ライトは慌て出す。


まるでウチのクソレフト。


コーチャーが
回している。


きっとセカンドランナーも
間に合うだろう。





日曜日のグラウンド。
どっちも決して
上手くはないけど
白熱した展開。



隣のでかいヤツを見る。



試合展開を黙って
見ているのだ。



「元希さん。」
「んだよ、
今イイトコなんだよ。」


奴はこっちに目線も向けずに
黒い大きい瞳を
忙しく動かす。



守るも、攻めるも。


恋の駆け引きだって
あんたの方が

うんと上手なのに。

ねぇ、


「好きですよ、
元希さん。」



目を閉じて
スイングするように

力任せに愛したいんだ。




「………は?」


夏の容赦ない陽射しが
ボールと重なったら

あんたのそのマヌケ面に
キスをおみまいしてやろう。
「俺もだよ…。」


時々は
ワンサイドのゲームみたいに。




元希さんの気持ち、
気付いていた。


踏み出せなかったのは
タイミングが
わからなかったから。





だっていつも
ここ一番って時に
力みすぎてしまうから。

そんで
目も当てれぬ失策。


大笑いを招く。




ほら、ライトが大暴投。






結局逆転されて
日が暮れていく。




日曜日の夕暮れ、
誰もいないグラウンドに
二人の陰だけが
長くのびて。




自慢じゃないけど
そりゃ俺は
あんたと比べて
特別なトコなんてない、
ママチャリのような
男だけど。



頑丈で壊れやしない
愛をずっと君へと。






逆に言えば
盗まれる心配さえ
ないんだから
その点は
安心してください。






「隆也。」

「なんすか。」







「俺の、隆也。」




少しでいいから
俺のモンって
君を感じていたくて。



「乱暴ですね。」



痛がっても
力任せに愛したいんだ。






夏の容赦ない陽射しが
ボールと重なったら



その隙に
キスを盗もう。
時々はワンサイドの
ゲームでいいだろう。





「また、来ましょうね…。」




目を閉じて
スイングした、
その球はきっと

場外ホームランだった。

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