*頂き物・授け物*
□雷鳴のち愛迷
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夏の夜はこんな天気が続く。
湿気でべたつく部屋。
ぬるい水蒸気が体を包み込む地味な暑さ。
そして
耳を塞ぎたくなるような
雨粒が屋根や地面を叩く音。
何回か強い光を放ち
直後に腹に響くような轟音を空から鳴らす雷。
それら全てが
安眠を妨害するただの雑音。
(…耳が聞こえなくなりゃいいのにな。)
そうすれば、雷や雨粒の雑音なんて気にならない。
目をつむる。
視界の明暗が時たま瞬く。
低く唸るような音。
「るせ…」
ほんと、
耳が聞こえなくなれば良いのに。
『よしー!』
眠気のまどろみの中で
聞き慣れた声が響いた。
『あのな、俺さ』
無意識に眉間に皺がよる。
『ずっと思ってたんだけど』
ふっ、と何かが瞼の裏に光を残した。
その時の笑顔は、真っ赤に染まった──…
『お前のこと好きだ!』
窓がガタガタと振動するほどの雷鳴。
上体を起こして、扉を見つめる。
(……耳が聞こえなくなれば、)
こんなことにもならないのに。
汗が流れそうなほど火照った顔
認めたくないのに。
─バタン
「よぉしぃー!雷こえーんだけどー!」
もし、耳が聞こえなくなったなら
この声さえも届かない。
(…それは、困る、かもしんねぇ。)
雑音だらけの世界に
その声が在るのなら
それだけで───、
(めちゃくちゃ怖いんだけど…)
(おまっ、ズボンは!?)
(あちーから脱いだ。)
(……目が見えなくなれば良いのにな…)
(なんか言ったかー?)
end