赤安

□隣にいなくてもいいよ
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包帯のようなロープのような
何かでグルグル巻きにして
俺にしか手が届かないようにしたっていい────


「起きたかい」
「ここは…、」
裸でベッドに横たわる安室透が
寝ぼけながら俺の方を見上げ、
やがて気付いたようにキッと俺を睨む。

「赤井…秀一…!」
「よせよ、潰れた君を介抱しただけだ」

「……なぜ僕もあなたも裸なんです」
俺はそばに置いていたタバコに火をつける。

「答えろ…!」
「君がみっともなく吐いたからだ」

ランドリーを指差すと、
安室君は起き上がり一目散に
洗濯物を確認しにいく。
その姿はいささか扇情的だ。


「よかった…」
「何が?」
後ろに忍び寄ってやると、
ビクッと反応する姿も
アラサーとは思えない可愛げがある。

「何もしてないってことです」
「俺がいつ、何もしてないなんて言った」

洗面台の灰皿にタバコを押しつけ、
その手で抱き寄せる。

「ほら、身体は覚えてるんじゃないか?」

肌のこすれる音。
その温度。

「お、覚えてるわけないでしょ!」
「はっはっは、それはそうだ」

あっさりと手を離し、
近くにあったパンツを履き
ランドリーを後にする。
安室君は騙されたことに気付いたようで
急いで乾いたパンツに足を通し
俺に文句を言う。

その赤らんだ顔で。

「なんなんですか…!」
「さて、なんだろうな」

接点を残したい。
偶然を叫びたい。
そして君と俺のつながりを得たい。

同僚でも友人でもない君と俺の。
涙のない関係。


「あなたまさか、僕のこと好きなんですか」
「……君にしては根拠のない推理だ」

「僕はあなたのこと好きですよ」
いつのまにか着替え終わった安室君が
それだけ言って香りを残す。
出ていこうとする安室君の手を慌てて掴み
何も言えずに数秒が経つ。

「でも僕、あなたとどうこうなる気はありません」
「…理由を聞いてもいいかい」
安室君はこちらを見ようとしない。

「あなたを僕で縛り付けたくない」
それはこういう意味か。
君がいることで、俺が縛られると。

「僕が隣にいなくてもいい」
「幸せならそれでいいって言うのか」

「いけませんか、幸せを願っちゃ」
ハッとして抱きしめた。

その声が震えていて
その涙が訴えていた。


隣にいなくてもいい。
いいなんて言わせたのは俺か。

手を出せずにいた、俺か。


今日だって手を出してしまうこともできた。
でも関係が変わるのが怖くて
いい人から抜け出せなかった。

「I miss you…」
「キザですね」

その笑った顔を
とっくに俺しか手が届かないようにしてたのに────



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