ハイガクラ

□敬語
1ページ/1ページ




こいつの使う言葉というのはいちいち嫌味ったらしい。
「藍さん、いらっしゃい。
何か飲みますか?」


この頃は具合がよく
東王公のはからいにより
自由に近い形で暮らしている。
自由といっても、
カゴの中の自由であるが。


「いらん。」
「…今日は何用で?」

ふわっと腰掛ける姿は
まさに神のごとく美しい。


揺れる髪。
澄んだ瞳。

比企は俺なんかに扱える存在じゃない。


「話し相手に来てくれました?」
にっこりと微笑むサマに
俺は悲しくなる。

わかってるんだ。
その微笑みは微笑みじゃない。

俺のせいでこいつは囚われてる。
この国の為にこの神は捕らえられている。


「藍さんありがとう。」
「礼なんか…、」

比企を見ると、
また苦しそうに笑うので
俺は胸のあたりが痛くなった。

「…何か不便なことはないか。」
「うーん…?」

思わず言った言葉には
下心はない。
だけど、どうにかこいつを自由に近づけたかった。
許されるわけないのに。


「藍さんが会いにきてくれないことかな?」
「…きてるだろ。」

「もっと俺のこと見てよ。」




またしても悲しそうな顔をする。
今度は微笑んでなかった。


ただただ、
目を伏せて俺の両肩を掴んだ。


俺は目をそらした。





「…比企、」
ごめんな。と言う前に柔らかな感触を唇に感じた。
かと思ったらぱっと離れる。

「好きです藍さん、」



わざとらしく敬語を使うこいつにはかなわない。
頬を少し赤らめて。
あぁきっと俺の方が顔が赤い。


「抱きしめてもいいですか。」




敬語にどきっとするなんて。



────好きです藍さん、抱きしめてもいいですか────

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ