ハイガクラ

□親離れ
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「采和。」

一葉の呼ぶ声が聞こえる。
俺は仕事の手を休め、答える。

「入れ。」




一葉は気まずそうにドアから俺の様子を覗く。
仕事をしていないことを確認すると
いつものように入ってきて
ソファに座った。


「どうした?一葉。」

答えは聞かなくてもだいたい予想できる。
俺のためだ。

二週間前俺が過労で倒れ、
仕事をやりすぎないように
復帰後から時間を見つけてやってくる。


「…暇だったから。」

こちらからは見えない顔が
おそらく赤いのがわかる。

背中が、大きくなった。


「大きくなったな、一葉。」
「はぁ!?」

ばっと驚いた顔を見せると、
今度はいぶかしげに眉をひそめた。


「もう大人だな。」

少し悲しいような、

俺が連れてきた頃は俺より小さく
今じゃ俺の方が小さい。


一葉は立ち上がり、
俺の前に見下ろすように立つ。


「一葉…?」
「采和、俺もう大人だぞ?」

そう言って俺を抱きしめる。
いつの間にか、大きくなった背。
俺より大きい手。
たくましい身体。


「…いつまでも、
子供だと思ってたのは俺だけか。」

俺のその言葉に一葉は俺を引き離す。


「もう采和より大きい。
力だって負けない。」

一葉の顔が真剣で、
俺の記憶にない表情をした。


顎を持ち上げられて、
ふわっと昔と同じこいつの香りがした。
そして、唇が触れる。
「おいっ!」
「好きだ、」

目を伏せがちに、顔を赤くして。
「好きなんだ。」


参ったな。
もう大人だ。


「…可愛かった一葉が見る影もないな。」

「うるせぇ、かっこいい俺の始まりなんだよ。」




そう言って、
深いキスが落とされた。


「あんたはこれから、
俺を好きになるんだ。」

END

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