その他おお振り

□夏恋
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夏の日。

花井に見とれて目眩。


ぐっと飲みほしたのは
新発売・微炭酸ピーチ。





「花井。」

二人きりの夜。
小雨の後のキス。





「いっきなり
何すんだよ!!」
「いいじゃん、
したかったんだよ。」


ひとつの傘を二人で差して
距離は
晴れの日より
ずっと近くて。




花井がこんなに可愛くて。

舞い上がる。






「あ、そだ、
こないだ赤外線で
送ったヤツ!

見た?」


「おぉー、見たよ。」



その時はまだ、
ただの仲間で
ただの友達で。

恋人でもないのに
こんな風に俺の気持ち
押し付けることはなかった。



俺達は
男同士。

俺達は
恋人じゃない。

俺達は
いつか会う人の為の練習。




そう偽って
俺はまた押し付ける。


少なくとも
俺の気持ちを。

少なくとも。






でも
次に繋ぐ赤外線は
きっと

きっと赤い糸。


そう信じてる。





「じゃあ、
また今度おんなじようなの
見つけたら送るな!!」
「おー、
さんきゅー。」



見えなくなる。

そんで
携帯を開く。



アドレス帳・花井梓。



電話マークを押して
耳に当てる。




また始まる。

別れてすぐの長電話。
いくら練習ったって、
どんだけよ。


苦笑いしながらも
俺は花井の声が聞きたい。


もうすでに恋人と知られているのに。


奪われることはないのに。


花井の心だけが
まだ見つからない。




泉の言葉を思い出す。


[見た目から入る恋なんて
夏風邪の次にタチわりぃよ。]

相談した時
そう言ってた。


[さんざんな前の一件で

もう充分懲りたんじゃなかったのかよ?]





友達の親身な言葉もかわして
俺は想う。


寝付けない程に焦がれてる。



「あ、花井〜?」




君色。


染まる準備もしてた、
のに。


「今からやっぱ
会えねぇ?」

>今会ったばっかだろ。



「頼むよ!!」

>………わかったよ。






今日は言おう。

今日しかないぞ。




そう思ってるのに
いざ目を見つめると言えない。




「田島?」

「なんでもない!

少し歩こうぜ。」



「?おう。」


当たり前のように
絡み合う指と指。

ちょっとためらってみるのは
花井の反応が見たいから。


繋いだ手
素直に絡めて

ぎゅってして

が言えない。




汗ばんだ右手は
待ちぼうけ。




「呼び出して、わり。」
「や、いいけど…。
どうした?」

「大丈夫ッ!」



作り笑い、
上手くなったかも。

ほら騙せたみたい。




帰りのコンビニ。

目を引くタイトル。




夏!恋人達を大胆に



……なんだコレ。




面白くて切なくて
ジャケ買い。

放り込んだ。





花井に好かれればいいな。


今日の着信履歴。
半分花井。


それなのに
こんなに切ない。
花井の一番は
きっと俺じゃない。


悔しい。



また
あの新発売の微炭酸ピーチ。

一本買った。




泡が弾けてなくなった。

夏の恋みたいだな、
と思った。





ピンクのボトル。

飲み干して、







ゴミ箱に放り投げた。

外すはずないそのボトルは


カァン、

と軽い音をたてて







足元に転がった。











「バカみてぇ…。」
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