短・中編

□聲
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朝方、佐助は信玄に任された任務を終え屋敷に帰ってきていた。
報告を済ませ幸村のところに顔を出そうと思い部屋へ向かっていると、幸村が風邪を引いたらしいという話が途中耳に入ってくる。

(旦那が風邪?!鬼の霍乱ってやつか…?)
真冬の川に入っても平然とし、寒さなど知らない様な幸村が風邪を引いた、と言う事に佐助は正直驚いた。

幸い今日はもう特に急ぎの任務もない。
何か暖かい物でも持って行くかと思い立ち、様子を見に行くことにする。


「旦那ー?起きてる?」
声をかけるが返事はない。
『入りますよーっ』と一応小さく声をかけて中に入る。
部屋の真ん中に布団が一つ。
起きてはいるのだろう、もそもそと動いているのが見えた。
布団の側まで行くとひょこっと布団から顔が上半分だけ出てくる。

(いやいや!何、その小動物みたいな行動!)
佐助は心の中で突っ込みをいれつつ、幸村の為に作ってきたお粥を布団の横へ置く。
「…起きてるなら返事くらいしてよねー」
お腹が空いていたのか、持ってきたお粥の匂いにわずかに目を輝かせた。
しかし風邪のせいで熱もあるのだろう、顔が赤いしいつもの元気はあまり感じられない。

「お粥作ってきたけど、食べる?」
そう聞くとコクコクと頭が上下に揺れた。
が、強く揺らした為頭に響いたのだろう。
“くおぉぉ”と言う声が聞こえそうなほど頭を抑えて悶えていた。

「何やってんの…」
佐助が少し呆れてそう言うと幸村は涙目でこっちを睨み、何やら口を動かした。

『こ・え・が・で・な・い』

と言っている様だ。

「って、え?!!声でないの?!」
佐助が驚いた声をあげると、今度は頭に響かない様ゆっくりと頷く。


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