Novel:side PUYO
□白と黒
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言い放つや少年は凶悪な笑みを深くして、咆哮する。
刹那、他の騎士が馬から飛び降り、少年を取り囲んだ。騎士の手には大槍が握られ、その穂先は少年に向けられている。寸分乱れぬ
速さと動き。
「貴様……このお方が何者であらせられるか、知っての狼藉か!!」
先ほど、少年と会話していた騎士が叫ぶ。
「知ってるさ…。魔導師なんだろう?それも、強力な」
何時その身を槍で貫かれてもおかしくない状況にありながら、少年の余裕は消えていなかった。
「我が糧となるに相応しい!!」
少年の狂気が最高潮を迎えた瞬間、その細い手に忽然と剣が現れた。
闇夜にあって尚昏い、漆黒の刀身を持つ諸刃の剣。
身の丈ほどもある長剣を、まるで重量を感じさせない動きで、少年は振りかぶった。
もし、少年を取り囲む騎士の内一人でも、魔導に長けた者が居たならば、直後の悲劇は回避できたかもしれなかった。
「スティンシェイド!!!」
少年の呪文が高々と響いたのと、悲劇の始まりは同時だった。
「うわああぁああぁぁ!? 」
少年を中心に、影が蠢き立ち上がる。その影は紛れも無く月影が騎士たちを映したもの。
己が存在に等しい影はしかし、無数の針となって騎士たちに襲い掛かる。
影は、戦場で敵の刃の突きからも護り抜く騎士の甲冑をいとも易く貫き、肉を裂き、血を噴出させる。
騎士に出来たのは、彼らの主人を護ることではなく、ただ断末魔の叫びを上げるのみ。
数瞬後、絶叫は闇に呑まれ、旅人に踏み固められた道に人であったモノが散乱する。
「呆気ない…。もう少し愉しませてくれると思ったんだがな」
言葉とは裏腹に、少年の声には狂った喜びが含まれていた。
少年は眼前に転がる騎士の残骸
をつま先で蹴り上げると、道の隅で情けない声を漏らしながら震える人影に歩み寄る。
「ひッ……!!」
十からの人間を血祭りに上げたにも関わらず、少年には返り血の一滴もついては居なかった。不自然すぎる、その姿。
少年は、騎士が護衛しようとしていた初老の男の目前に立つと、手に持った剣の刃を相手の首に触れさせる。
「う…わぁ!!」
首に触れた冷たさに、我に返ったのか男は逃げようと足を動かす。が、丸く肥えた体では少年から逃れうるような機敏な動きで出来るはずも無い。
男の進行方向を塞ぐように、そ
こらの木に剣を突き立てる。
「!」
思いの他、素早く男は立ち止まった。否、立ち止まらねば男の首は水晶のような黒い刃に落とされていたことだろう。
「あまり手間を取らせるな」