Novel:side G.U.
□幸せの行方
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オーヴァンと喧嘩した。
理由なんて他愛無い。
他愛無さ過ぎて覚えていないような会話から、一方的な喧嘩が始まった。
「しょーがねーじゃん…!それでも志乃はあんたの方がいいんだ!俺よりも…」
黒いベルトだらけの服に身を包んだ錬装士――俺は血を吐くような思いで叫んだ。
困ったような、少し悲しそうな志乃の視線が痛い。こんなこと、言うつもりなんてないのに。
志乃が悲しげな表情をすることを分かっているから。
再誕#ュ動後、ずっと行方知れずになっていたオーヴァンが戻って来て、志乃が嬉しそうな顔をしているのを見て、俺も幸せな気分になれた。
前みたいに黄昏の旅団≠結成して、それぞれの黄昏の鍵≠探す。それだけで良かったのに。
相変わらずオーヴァンはあちこちをフラフラしていて、ホームに戻ってこない。
それでも、オーヴァンが生きているって分かっているから、志乃の表情が曇ることはない。
それはそれで、俺も嬉しかった。
だけど、全部を割り切ることが出来ずにいた。
「勝手に姿を消して、志乃をPK
して、妹を救うために世界を危機に晒すようなロクデナシでも!それでも、志乃はあんたのことが…!」
俺の怒りの核心に触れる言葉を紡ごうとしたとき、ぱん、と乾いた音がして、頬に痛みが走った。
「…志乃」
オーヴァンの抑揚のない声が聞こえるよりも前に、志乃に頬を引っぱたかれたんだと気付く。
「……ハセヲ、言い過ぎだよ」
小さな声だったけど、ハッキリと告げられた言葉。
「…そんなこと…」
言われなくたって分かってる。
この一方的な口げんかは、ただ単に先の再誕事件で溜まった俺の鬱憤を一方的に叩きつけているだけだ。そんなこと、誰よりも自分が分かっている。
俺は、何となく居た堪れない気分になって、二人に背を向けてホームの出口に向かって歩き始める。
「ハセヲ?」
後ろの方から低い声が呼びかけ
た。オーヴァンと目を合わせる気になれず、俺は背中越しに用件を告げる。
「少し、頭冷やしてくる」
ホームから一歩外に出ると、海の街であるマク・アヌらしい潮の香りがした。