Novel:Side GG
□Intermezzo-Decision-
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そこは静謐な場所だった。
明かりと言えば、直径十メートルを越えるステンドガラスから通る、七色の光のみ。
複雑に組まれたリヴ・ヴォールトの天井が、遥か高見から人間を見下ろす。
主祭壇の手前に、一人の少年が居た。神の御前にひれ伏すかのように、石の床に膝をつき、祈るように頭を垂れる姿は、見る人に天使の存在を信じさせるだろう。
それほどに少年は美しい容姿をしていた。金糸の髪は絹の如き滑らかさで、少年の白い頬を彩る。閉ざされた瞳の色は窺い知るより他ないが、整った目鼻立ちや華奢な体躯を見ると、天使像が動き出したかと錯覚させるほどの完成された美だった。
「カイ」
不意に名を呼ばれ、少年は閉ざしていた瞳を開く。透明感のあるターコイスブルーの眼が、声の主を映す。
「クリフ様…」
声変わりを終えていない声で、その人物の名を呼ぶ。聖騎士団団長を務める老人は、カイに近づき、持ち前の茶目っ気を含めて言う。
「今日も礼拝か?マメな奴じゃのう」
揶揄するような言葉に、普段なら言い返す所だが、カイは何も返さず俯く。 弟子であり養子でもあるカイの様子に、クリフは違和感を覚えた。
カイの形の良い唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は、味方を殺しました」
まるで懺悔のように。
賛美歌のように美しい調子で。
しかし、少年の口をついた言葉は、クリフも予想していなかった。呆気に取られても表情にまで表れなかったのは幸いか。
数日前。カイが所属する小隊の一人がギアとの戦闘の直後、味方を斬り殺すという事件があった。気の振れたその騎士はしばらく暴れ続け、数名の重軽傷者が出たが、その場で斬り殺され、それ以上の被害には至らなかった。
腕の立つ騎士数名が束になっても、殺すに至れなかったその狂騎士の命を奪ったのは、カイだった。
カイの行動は騎士団内の会議にかけられたが、その場における最良の策とされ、評価を受けている。
後になって知ったことだが、件の気の振れた兵士とカイとは、気心の知れた友人であったとのことだ。