Novel:side PUYO
□白と黒
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黒が好きだ。
何者にも染められぬ色。
何者にも侵されざる色。
――に染め上げられることも無い。
『――は、肌白いし銀髪が綺麗だし、きっと白い服が似合うよ』
遠い記憶の中、誰かがそう言った。
誰だったかも思い出せないが。
――下らない。
一時の感傷など、少年にとって無意味だった。
彼にとって時間など、無限にあるも同然なのだから。
宵闇の中、銀髪の少年は黒衣に身を包み、ひとり佇んでいた。
月が狂ったように蒼い光を放ち、少年の影を闇の中に刻む。
魔物が出てきてもおかしくない、舗装すらされていない森の中の一本道。だが近場の街に入るにはこの道しかなく、少年の獲物がこの道を通るのは間違いない。
丁度、そう考えていた時である。
「――噂をすればなんとやら…ってか」
街とは反対の方向から、馬の蹄の音が響き始める。一頭や二頭といった数ではない。五、あるいは十近くはいるだろうか。
やがて隊列を組んだ馬の群れが少年の目の前に迫る。少年は不遜とも言える笑みを浮かべ、道の中央に立っていた。丁度、隊列を阻む形で佇む少年を無視できなかったのか、馬の群れは少年を前に、立ち止まる。
馬を駆る者達はそこらの騎士か何かのようで、全身を甲冑と鎧で覆っている。彼らに護られるように、魔導師の服に身を包んだ男が少年を一瞥した。
月も天頂に昇る時間に、街外れの街道に一人で佇む少年を胡乱な視線が集中する。隊列の先頭を走っていた騎士が少年に問いかけた。
「かような時間に何をしているのか」
声には明らかな疑惑と、些かの苛立ちが含まれていた。
「別に。お前らに用は無い」
少年は淡々と呟き、眼前の騎士を睨み返す。ただし、その顔に狂気の笑みを刻んで。
「用があるのは、あんたらが護衛してるヤツだ!!」