成年編
□in D.C
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不動明王、吹雪士郎
僕はアパートからこの練習場へと徒歩で来ているんだけど、アキが『オレのに乗ればいい』と言うから君と駐車場へ。
彼の後ろを着いて行くと、一台のバイクの前で君は足を止めた。
「…………え……これ?」
「そっ! オレのバイク#」
「うわ、すっごい!」
あ、………この素直で明るい笑顔は………*
「フン、ウソだね」
「ククッ、やっぱ分かる?♭」
そう、この顔、不動明王のこの企むような笑顔が僕は好きなんだ*
「オレ昔っからこいつに乗りたかったの。お前がアメリカに渡るって聞いてからどうしても乗りたくなってな、とうとうレンタルして来ちまった♭」
「キミらしいよ*」
この黒いバイク、 Harley‐Davidson FLHTC Electra Glide Classic
長っがい名前に命名側の心が見える。後部座席には小さいけれど背もたれが付いて乗り心地も良さそうだ。
「鬼道君に借りができちゃったけどな」
「え〜、もう借金まみれ?」
「ククッ♭ 借金生活には慣れてる」
「鬼道くんは見掛けに依らずお人好しだから、あんまりたかっちゃダメだよ」
「見掛けに依らずか?」
「だって、見掛け強欲っぽいでしょ?*」
「清々しく辛辣なこと言わんでやってくれ……」
「言い返してもいい?」
「………ダメ」
どうも僕はハーレーに縁があるのかな?*
エンジンをかければ、キュルキュルキュルボボボボンと地を這うメタリックの丸い音が響き渡る。
アクセルを回せば 軽い小さな丸が散らばっていく。
エンジンを温めている間に僕はこのバイクを見て回った。
「鬼道くんにバトルスーツ着せたい」
「…………」
「それで Fat Boy に乗ってもらうんだ」
「……なんで……」
「ドレッドにハーレーだよ? あとはスーツで完璧*」
「………お前、マジで鬼道に送るなよ? あいつはすぐ調子に乗るからな」
「うん、君にも送るよ。ふふ* 僕も免許取ろうかな」
「マジかよ……」
「でもね、僕はMonkeyがいいんだ*」
「お! オレも好きだよ♭」
『乗れよ』と渡されたヘルメットもハーレー純正 ハーフヘル。僕はシルバー、アキはブラウンブラック。
そして、サングラス………悪そ〜*
これでバトルスーツ着てたら完璧なんだけどな。ヘル無し、モヒカンならなお完璧!
「本当は、アリゾナを走りたいんだけどな!」
「そうなんだ!」
「とりあえずオマエんち、案内しろ!」
「近すぎるから、観光しながら帰ろうか!」
「OK! 任せる!」
アキがエンジンを回すから大きな声を出さないと聞こえない。ここぞとばかりに君に近づく。
これがすごく嬉しい。すごく楽しい*
メタリックなシャボン玉を撒き散らすようにハーレーが走り出す。安定感抜群で後ろの僕も安心して乗っていられるよ。
これで君とアリゾナの赤い荒野を走れたら、どんなに気持ちがいいだろう…
グランドキャニオンか、行ってみたいな*
**********
ハーレーでワシントンの街を走る。僕のチームのホームスタジアムを見てからペンシルバニア通りに抜けた。
ホワイトハウスを見て、劇場とか美術館も回った。とにかく全てがデカい。大きい。
その中でアキが一番興奮したのがFBI本部ビル。
はは* アキらしくて可愛いと笑ってしまう*
寄る所寄る所で写真を撮りたがるから時間を大きく費やしてしまいもう暗くなってきた。
「あのさ、グラウンドからここまで歩いて15分なんだけどな。なぜ2時間もかかるのかな?」
「いいだろ? W旅は道ずれ、オレは寄り道Wそれもまた楽しだ」
「Wキミは寄り道、僕は腹ペコWどうしてくれる?」
「………なんかないの?」
「………ピザ取ろうか?」
「オマエのおごりな」
「借金持ちは黙ってなよ」
「うっせ!…」
途中何処かに寄って食べればよかったけどね、アキと二人だけで過ごす時間が欲しかったのも正直あるんだ。
アパートの狭い一室に案内して着替えをしてアキと二人くつろぐ。
ソファーに座った彼の膝を枕にピザのネットオーダーをした。こんな感じでゆっくりするのを懐かしく思い、日々が過ぎたのを感じた。
「あ、ヒロからメールが入ってる。電話してみよっか*」
「いいが、今日オレが来た事は内緒にしたい」
「………わかった、なら返信で終わらせる。それと、君がここへ来た理由も僕からは聞かないから」
だまって苦しそうな笑みで僕の髪を梳く。
「Wアキオとシロウの小さな旅Wは明日に持ち越しだね〜」
「何だそれ…。オレにとっちゃ今日のも旅なんだよ」
「ふふ*そうだよね。あ、キャプテンや染岡くんは元気?」
「元気すぎて嫌になる。お前はいいな、落ちつくよ」
アキの顔が近づいて額にキスをくれるけれど、そっけなく受け流す。
だって、お腹がすきすぎなんだ……