成年編
□in NY秘密基地
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シロ:吹雪士郎
ヒロ:吉良ヒロト
アキ:不動明王(名前のみ)
19才、アメリカ
ここはアメリカ首都ワシントンの街外れにあるマンションの一室。
スタジアム近くにある、オーナーが用意したチーム用のマンションに僕は住んでいるんだ。
僕、吹雪士郎の部屋に、友人の一之瀬一哉が遊びに来ていた。
「あ、メールだ」
「誰?」
「*」
「あぁ」
『久しぶり。変わりないかい?
来週だけど仕事でニューヨークにいるんだ。
だから、来週末に会えないかな?
アキにも連絡した。今どこにいるんだろうね。
誰よりも、君を愛しているよ
君のヒロトより♪』
『久しぶりって、5日くらい前にも話したような……』
すぐに携帯を閉じてポケットに片付けた。
こっちが夜8時なら……
「日本は何時だろう?」
「え〜っと? 朝の10時頃かな。ヒロト何て?」
「ニューヨークに行くから会えないかって」
「良かったじゃないか。楽しんでこいよ」
「……うん*」
「お前ら長いのにお熱いな」
「ヒロが…無理してるんじゃないかな……」
「そのラブラブメールを信じてやれよ」
「……え、なんでわかる?…ラブラブ ;」
「今更だよ」
一哉ともう一人、土門飛鳥とは時々こうして遊んでいる。僕とヒロとアキの仲も知っている友達だ。
特にヒロは立場なんかもあって、社会に出て特に考えさせられるんだ。
「日本に戻るっていう手もあるんじゃないか?」
「そうだな〜……アメリカの自由が好きだから、まだここにいたいな*」
「そっか。ヒロトには悪いが、オレは嬉しいよ」
メールへの返信は『近くだから土・日会えるよ』と出した。
それから何度かメールや電話のやりとりをして、今日に至る。
アキとは未だ連絡が取れず行方不明だ。
ヨーロッパの方へ旅に出ている彼にはよくある事なんだけど、生きているだろうか……
僕は土曜の練習を終えてから、変装姿をチームメイトにからかわれながらスタジアムを出た。
ヒロが近くのWRR国際空港まで迎えを寄越すよと言ってくれたんだ。
空港のインフォメーションでHiroto Kiraの名前を出すと、スティーブという中年男性が来て『ヒロトに君の事を頼まれているよ』と言うんだ。
彼と奥さんも僕の大ファンで試合は絶対見ていると言ってくれるから『ありがとう』と握手をした。
車で連れて来られた一般機が集まる一角に、一風変わった水陸両用飛行機がある。
白と……この色は暁鼠の色……
その飛行機には "吉良" と大きく描かれているから、僕が乗る飛行機だとすぐにわかった。
お迎えが飛行機とはね……
機体を触りながら見ていると、吉良の文字の下に『& Blizzard』と筆記体で小さく書かれてある。
『ホントに僕が好きなんだねぇ……*』
ブリザード号と勝手に名前を付けて乗り込むと、管制と交信しているスティーブから奥さん手作りウィンナードッグをいただいた。
お腹空いてたんだ*
delicious*!
親指をあげると、スティーブも同じく満面の笑みを見せてくれた。
ワシントンから飛び立って飛行する事1時間半程すると『あそこにヒロトがいる』と言う。
え………島? ブリザード号が旋回する下には一つの島がある。
この島にヒロがいる?………スケールの大きさにある思いがよぎる……
けれど今は、キミの顔が見たい。
『もうすぐ逢えるね、愛しいキミに……』
水飛沫を上げて着水するブリザード号は、何だか他人には思えない飛行機だよ*
「Thank you* 」
「Have a Nice weekend, Shiro!」
また明日来ると言うスティーブと握手をして降りた。船着場から青空に飛び去って行くブリザード号に手を降って見送った。
「シロ……よく来てくれたね」
心地いい声……
振り向けば、懐かしい笑顔の君が立っていた。
「ヒロ* 久しぶり」
「やっと逢えた……」
嬉しい言葉……
どちらからともなく、キツく抱き締めあった。
「シロ……逢いたかったよ……」
涙声で逢いたかったを繰り返す君に、胸が痛くなった。
「ほら……こうやってキミを傷つけてしまうんだよ……」
「シロ〜……」
「相変わらず甘えんぼさんだ。なかなか会えなくてごめんね……」
抱き付いているヒロの首にキスをした。
ヒロは朱色の髪が明るく日に映える男前。だけど涙もろい、甘えんぼさんなんだ。僕の前だけね。
彼は、吉良財閥の跡取りとして立派にやっている。
「泣かないでよ*」
「だって……9ヶ月も会ってなかった……」
「そっか……ごめん」
僕の自慢の恋人だよ*
キミに肩を抱かれて砂浜を歩く。
心には、大人になってからわかる様々な葛藤があるけれど、会えばそれすら消え去ってしまう。
今はただ、そんな自分に任せてみよう。
奥に見える平屋に通された。空から見ていても家はその家だけだった。
ドアを開けると、美味しそうな匂いに混ざって懐かしい香りが漂ってくる……畳の香り……
木造日本風な建物。玄関で靴を脱いで上がると違和感を感じた。『ここ、USAだよね?』
スリッパを勧めてくれるけど、断った。
「このままでいい?」
「どうぞ」
靴下でフローリングを歩くと、足裏が冷んやりと気持ちがいい。
いつの間にか、靴を脱がない生活に慣れていたんだ。足の開放感も懐かしい。
通されたのは広い広いリビングダイニング。奥に畳が敷かれた一角があった。
それでか〜*
「ねぇ、あそこに居てもいい?」
「どうぞ。懐かしい?」
「うん。いい香り*」
君は僕に急須と湯呑を持って来てくれた。
「これも懐かしいんじゃない?」
「待って、急須自体FFI以来見てないかもしれないよ……」
時が過ぎる速さに、二人で苦笑い。
「まだ、食事の用意の途中だったんだ。ゆっくりしてて」
キッチンに向かう彼に思い出した。
「あ、スティーブにパンもらって食べたから気にしないで?」
「そっか、じゃあこれは夕飯にするよ。いい奴だろ? キミは人懐こいから何かあげたくなるんだよね」
「子供みたいに言わないでよ* けど自分でもお得な性格だと思う。嫌いじゃないよ」
「可愛いよ。今すぐベッドインしたい♪」
「…… ;……」
キッチンに立ち料理をするヒロトは初めて見る。
何を食べさせてくれるのか楽しみにしながらテレビをつけると英語ばかりが流れてくる。
畳の薫りと感触が懐かしくて、靴下も脱いでしまって大の字に寝転がった。気持ちい〜*……いいな……
これまたいいところに座布団が。二つ折りにして枕代わり。
落ち着くな、和の趣きとヒロのそば……一句できた?*
あ…れ?……いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
目が覚めると、背中に温もりを感じて笑んでしまう。誰かはわかるからいちいち確かめはしない。
知っている大きさと、乗せられた腕の重み……
嬉しい、幸せ、そんな温かい言葉しか思い浮かばない。
君の寝息を乱さないよう、そっと腕時計を覗くと、2時間程寝てしまって6時を回っていた。
もう、君を起こしてもいいだろうと、ゴソゴソと向きを変えると、起きた青碧の瞳と対面した。
「ヒロ、おはよ*」
「……しよ?」
「……いいよ*」
ヒロの前髪を掻き上げ、額にキスを一つ落とす。
「その前に、シャワー借りていい?」
「なら、一緒に入ろうよ」
着替えを持って行こうとする僕に言うんだ。
「バスローブがあるよ」
その言葉の意味に恥ずかしくなる。
これからキミと…………ね。