頂き物
□マザーグース7
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「ただいま〜。」
掛けた声に返事はなかった。灯りも点けずに中に入れば机の上にメモが一枚。
『犬と千種の所に行ってきます。』
ハァ、息を吐き出しソファーに転がった。
「友達、か…。」
自分には友達なんて呼べる人がいない。こんな時、辛いと言える人がいない。
本当、意味がないな。煙草に伸ばした手は別の手に遮られた。
「……な、んで?」
その人物は暗闇の中ニッコリ笑った。
「側にいてくれるっていったじゃん♪」
「けど…貴方にはうちなんか必要ないでしょ?」
フワリ、握られた手はほんのり熱を伝えてくる。
「ある世界にね、たった一人でマフィアを滅ぼした子供がいたんだ。」
怠さから動かない身体に男は優しい指先で触れた。
「最期に子供はこう言ったんだ…寂しいって。夢が叶ったのに、お金もあるのに、足りないんだって。」
最後に頭を優しく撫で男は消えた。こう言い残し。
「愛情が見付からないって言って、自害したんだ。」
ハァ…その子はパラレルワールドのうちなのか。ノーノに会えなかったうちの結末という事か。
「ノーノ…。」
やはり貴方のせいじゃなかったよ。うちはあの時から狂っていたのだから。
ママとパパ…そして皆が死んだ、あの時から。
うちの運命は変わらない。どう足掻いてもこうなる運命だったのだから。
「この生に、意味はない…。」
例え今死んだとしても、誰も哀しまない。哀しんだとしてもそれはほんの一時。時間がくれば忘れてしまうだろう。
爪に氷を纏わせ手首を切り裂いた。そこからは真っ赤な血が流れ落ちる。
まだ、生きている。
こんな事でしか生を実感出来ない自分はなんて愚かなんだろう。
声がする。
それは心地好くうちに安らぎを与えてくれる。でもダメだよ。貴方はまだ出てきてはいけないのだから。
出来ればこの先一生、貴方の姿は見たくないの。
もう、争いは嫌なの。誰かが傷付く所は、見たくないの。
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