頂き物
□マザーグース7
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この生は酷く曖昧だ。
「好きです!付き合ってください!」
差し出された手をそっと握り締め優しく微笑む。
「ごめんね、うちは皆の事同じくらい好きだから、誰か一人を選ぶなんて出来ないの。」
「麻里ちゃん…。」
「だから…これは二人だけの秘密、ね?」
大きく頷き笑いながら去っていく生徒をやはり笑みで見送る。
生徒が消えた瞬間、その表情は消える。フェンスに手を掛け煙草をくわえる。皆が好きなんて、そんなの偽善だ。ただの言い訳に過ぎない。
ただ、純粋な子供達を傷付けたくなかった。彼らは薄汚いマフィアとは違う。真っ直ぐ、夢に向かって羽ばたける翼を持っている。
自分にはそれがない。数千の命を奪ってきたこの身体は真っ赤に染まっているから。翼はあの時もげてしまった。
自分に出来るのはただ、あの子を妬むだけ。幸せは直ぐに忘れてしまうのに、この嫉妬心はいつまでも煙ったままだ。
例えば今、此処から飛び降りたとしても、恐らく何も変わらないだろう。誰の人生にも影響しない。
曖昧な生にはなんの意味もないのだ。
「また言い寄られてたの?」
給水塔の上から現れた恭弥に曖昧な笑みを向ける。
「恭弥だってモテるじゃん。」
「うっとおしいだけだよ。」
「フフフ!それにうちの場合、モテる訳じゃないし!」
年上とか、禁断とか、そんな恋に憧れる年頃ってだけ。たまたま歳が近いから、ターゲットにされただけ。そう告げると恭弥の顔が微妙に歪んだ。
「隼人だって、かなりモテるじゃん。」
「彼の場合無自覚だから厄介なんだよ。」
「分かる〜!女子男子問わずだもんね!」
彼の生は生き生きしている。ちゃんと、夢に向かって羽ばたいている。
「君だって…。」
それきり途切れた言葉に首を傾げた。
彼らは真っ直ぐ前に向かって進んでいる。それを導いているのは決して自分ではない。
自分は誰かの生を左右させる力はないのだから。それをやってのけるあの子に今日も汚い嫉妬を向ける。
あの子の様になりたい訳ではない。ただ…
この生に意味が見出だせないだけだった。
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