頂き物

□マザーグース5
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空を眺め、息を吐く。煙草を吸って、息を吐く。



それの繰り返し。



ただそうしているのが楽だった。何もしたくない、誰にも会いたくない、一人でいたい。



それは常日頃から感じている事だった。なのになにかしなきゃと脳が急かす。



壊れてしまった脳は正常な信号を発してはくれない。グチャグチャな脳内は今にも破裂しそうだ。



だからこうして息を吐く。この瞬間だけはなにも考えずにすむから。



とこんな事を考えている時点でやはりおかしいんだと自嘲を洩らす。



なんでこんな事を考えてしまうのかは分かっている。骸の事だ。彼を救えなかった。それだけでうちの脳内は狂った歯車の様にギシギシ音をたてる。いや、違う…救ったのが沢田綱吉だからだ。



彼は太陽。皆に光を与える眩い存在。だけど自分はそれを恐れ日陰に隠れてしまった雑草。日の光を避け所々朽ちてしまった真っ白い草。



そんな自分が嫌いでしょうがない。憎み、妬み、そんな事しか出来ない自分は醜い存在でしかない。



キィ、響いた扉の音に一時思考をストップする。



「今日は一人なんだね。」



「うん、隼人は体育だから。」



「そっか。」



向けられる優しい笑みに笑顔で返す。恭弥は光を拒むうちに水を与える存在。ギリギリの精神を繋ぎ止めてくれる存在だった。



見下ろした先、隼人を見付け笑みを洩らすがその横にいる存在に眉を寄せる。



「恭弥も…綱吉が気になる?」



「そうだね…咬み殺したいとは思うよ。」



ほら、やはり彼も太陽に惹かれるんだ。



「じゃあ、いらない。」



「……え?」



「さよなら、―――。」



それだけ告げると屋上を後にした。瞬間訪れる倦怠感にズルズル身体が崩れ落ちる。



水を失った草は、後は朽ちるだけ。



「全く…貴女はどうしてそんなに追い詰めるのですか?」



その声に小さく顔をあげるとそこにいたのは…



「だからですかね…こんなにも気になるのは。」



フワリ身体が浮く感触にああ、自分は抱えられているんだと他人事の様に思った。



「ありがとう、…。」



死への恐怖は全くない。



寧ろ生きている事が恐かった。



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