頂き物
□マザーグース3
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「うん、大丈夫!…心配し過ぎだって!…愛してるよ、ノーノ…おやすみなさい。」
漸く迎えた入学式。
担任として紹介されたうちは壇上にいた。
大丈夫…扉の方を見れば恭弥がムスっとした顔で立っていた。ごめんね、心の中で呟き生徒を見下ろした。
(あれが…沢田綱吉…。)
一際小さい男子生徒は先程から落ち着きなくキョロキョロしている。
見た感じ特に感じるものはない。やはり接触してみないと分かんないか。
そう思い再び視線を漆黒へと向けた。すると彼も沢田綱吉を見ていた。ありゃ、気付かれたかな?勘のいい彼の事だから何か気付いているのかもしれない。そうでなければこんな新米教師が担任になどなれる訳がないのだから。
ハァ…一服したい気持ちをどうにか抑え教室に向かった。
「これから三年間皆の担任を勤める棚橋麻里です!皆、よろしく!」
「先生何歳〜?」
「彼氏いるの〜?」
「好きなタイプは〜?」
そんな生徒達の質問を適当に流し説明など色々終わらせ職員室に戻った。
荷物だけ置き速攻屋上へと向かった。そこにはやはり恭弥がいた。
「ハァ〜!疲れた!」
バフンと飛び込めば優しく受け止めてくれる。
「そんなに疲れるなら、担任なんて断ればいいのに。」
「ダメ!これはうちの夢だから!」
「夢?」
いや、違うな。うちの夢じゃなくて、ノーノのお願い。絶対遂行しなければ!
「大丈夫、恭弥に癒されてるから!」
そう言うと恭弥は優しく微笑んだ。皆恭弥の事を鬼だの悪魔だのいうが、そんな悪い子じゃないと思う。だって恭弥はうちの天使。
「違うなあ…なんだろ?」
「なにが?」
「ん〜、しっくりこない。」
そんな事をモゴモゴ考え身体を離し煙草に火を点ける。
ノーノからの電話、恭弥、煙草、たまに会う隼人。それが今自分を構成する全てである。
それはどれも脆くて儚い。
(逸そ死ねたら…。)
瞬間後ろから抱き締められ思考が帰ってくる。
「…なあに?」
「ううん…ただ、こうしたかっただけ。」
ホント、無駄に勘がいいなと思う。だからかな…こんなに穏やかな気持ちになれるのは。
「手、冷たいよね。」
隣に座っていた恭弥に握られた手をキュッと握り返した。
「…嫌?」
「ううん…気持ちいい。」
ああ…この子も同じ事を言うんだ。
『手、冷たいけれど寒いのかい?』
『ううん。多分、これのせいかな?』
翳したリングに彼は小さな笑みを浮かべた。
『…嫌だった?』
『いや…心地好くて、私は好きだよ。』
そうか、彼はノーノに似ているんだ。
そしてそんな彼をうちは利用する。
…最低だ。
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