Brothers Conflict 夢
□夏のイベント
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『幸せだーーーー!!』
住宅街では無い、兄弟しか居ないこの場所で、今度こそ思いきり叫ぶ。
ヤシの木、コテージ、プライベートビーチ、別荘!!
そう、ここは朝日奈家が所有するとある離島。
何時間も掛けて来たかいがあった、と思わせる程の素晴らしく綺麗な所だ。
「音緒お姉ちゃん、早く遊ぼっ!!」
無邪気な弥くんの誘いに、乗らない訳がない。
しかし、まだ荷物を落ち着かせた訳でも水着に着替えた訳でもないので、弥くんに待てを言い渡す。
『絵麻、コテージに荷物置いたら着替えよ!』
離れた場所で感動している妹を呼べば、瞳を輝かせたまま駆けて来る。
「凄いね!!
パパにも見せてあげたかったなぁ。」
『麟太郎も忙しいんでしょ。
ま、今日は11人もの兄弟が一緒なんだから楽しもう?』
仕事を見合わせて、結局全員行ける事になったのだ。
仕事で忙しい風斗はドラマのロケがこの近くで入ったらしく、今日一日とはいかないが旅行に参加出来るらしいのだ。
「お姉ちゃん、着替え終わった?」
絵麻の方が着替えは早く終わり、外で待っていた。
『お待たせ〜』
「ぅえっ!!
おっお姉ちゃんそれ!!!!」
私の胸元を凝視し口を開閉して驚く絵麻に、私は気にしない様に宥めた。
『さっ、私は弥くんの所に行こ〜』
そそくさとその場を離れ、弥くんを探す。
絶対、絵麻は後から私を問いただすだろう。
言及なら絵麻と右京さんが一番恐ろしいな、と考えながら弥くんを探す。
『あ、弥くーん!!』
浅瀬で雅臣さんと遊んでいる弥くんを発見し、大きく手を振りながら近付いていく。
『あれ、要さんも居たんですね。』
「酷いなぁ、音緒ちゃん。」
しろい砂浜に青い海に金髪は目立たない訳は無いが、こうやって兄弟達を弄ったりするのが楽しい私。
「それにしても絶景だね。」
『それはどうも。』
要さんは私の爪先から頭を観察してニヤリと笑った。それに反比例して近くに居た雅臣さんは急いで顔を反らした。
私の水着は黒ビキニ。絵麻の様にスカートは付いていないので露出は大いが、胸元と腰の左右がリボンで結ばれているので可愛い。
「…その胸。」
目を驚きに開いて、要さんは一点を目つめる。
『これ、タトゥです。
要さんにも入ってますね。』
要さんの着ているパーカーから、左の鎖骨にタトゥが見えた。
私には左胸の膨らみ途中の部分に、十字架と剣と薔薇の花が刻まれている。
詳しく言うと、十字架の縦の部分が途中から鋭く尖っていて、剣に見える。その切っ先には薔薇の花が二つ咲いていて蔓も延びていた。
『お揃いだね、お兄ちゃんっ!!』
目の前でわざとらしく微笑む。
固まった要さんに私は気分を良くした。
これが椿くんのあざといいかな?
よし、椿くんにも見せて、同じ事してやろう!
『弥くん、ちょっと待っててね!!』
「うん、僕まーくんと遊んでるね!」
くるっと向きを変えて双子の元へ行こうと歩き出すと、後ろか腕を捕まれた。
「そのまま。」
振り向くな、という事だろうと解釈してそのままで居ると、背中に要さんの体温を感じた。
私の足元には大きな影が出来て人が近くに居る圧迫感も感じる。
『要さん?』
耳から、低く甘い囁きが聞こえた。
「……水着似合ってる。
タトゥの意味、今度教えてね。
勿論、二人きりの時に…ね。」
毒が身体に回るより早く、その言葉は私を痺れさせた。
身動き一つ出来なくてもどかしい。
そんな様子を要さんは愉しそうに上から見下ろす。
「音緒ちゃんが誘惑するから…お仕置き。」
それから突如掴んでいた腕を解放し、私の身体も要さんの毒から逃げて動けるようになった。
タトゥにはそれぞれ彫る絵や形によって意味がある。
要さん鋭いなぁ。腹の探りあいをしている気分かも。
「あっれ〜音緒だ!
水着ちょーかーい!!」
探していた双子を見つける前に、向こうから私を見つけて後ろから抱き締めた。
「うん、似合ってるよ。」
梓さんも椿くんと同様褒めてくれるが、私が振り返って正面を向くと少し赤くなった。
「音緒、タトゥいれてんの?
ちょー格好いいじゃんかよ!!」
やはり私のタトゥを見つけた椿くんは、すげぇ!と連呼しながら喜んでいた。
タトゥは偏見がある人も居るけど、椿くんの反応は私の心を少し溶かした。
「椿、いくら何でもそんなに見るのは失礼だよ。」
何時もの如く椿くんのストッパー役を務めている梓さんは気を遣ってくれる。
『いいんです、梓さん。
椿くんの反応は嬉しい事ですから。』
今度は私が梓さんを宥めれば、照れたように梓さんは微笑んだ。
それなら、と椿くんに対する制裁を控えたようだ。
「ねぇ、何で梓の事さん付けで呼んでんの〜?
俺の事はくんなのに」
未だ腰に腕を回す椿くんは私と梓さんを見上げて聞いた。
え、いまさら?
『椿くんはお兄ちゃんの代わりにそう呼んでるけど…梓さんは何も言われなかったから。』
双子独特の同じ四つの瞳が、大きく開いた。
そんなに驚く事を言っただろうか?
「いや〜、俺らは二人で一つって良く言ってるし言われるんだけどさ、」
「椿と僕はセットって思われてても仕方ないんだけど、一人ずつの人間として見てくれたのは初めてだったから…嬉しいんだ。」
椿くんと梓さんが入れ替わりに言葉を紡いでいく。
そこは双子なのだと実感する。
相手の言いたい事、伝えたい事が互いに通じあっていた。