華アワセ 夢
□鬼札の気まぐれ
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「梨聖様っ…このような」
面白い程の動揺を見せる蛟は依然顔は赤いままで、言葉を途切れ途切れに紡いでいく。
「おいっ離れろクソ蛟!!」
「静粛に。
ここを何処だと思っている。」
蛟の滑稽さに笑ってしまいそうになるが、それ以前に唐紅の一言が理事長室に響く。
その後のいろはも、この戯れを治めるべく口を開いた。
いろはの喋りにつられ、私の気分も低下していく様だった。もう興味もなくなる。
『…泉姫候補、鬼札が選ぶのは貴方……。
私は愛人に徹するわ。』
私の元に鬼札が帰らない限り、私は只の水妹にすぎないのだ。悲しいとか、惨めなどと云う感情はとうに捨てた。
「鬼札に導かれた新たな泉姫候補は、蛟を選ぶと思うのか?」
流し目で問う金時花に対して、これ以上の言葉はもう要らない、と判断して私は口を閉ざした。
「ふぅ…、とにかく今新たな泉姫候補を迎える準備をしておる。
梨聖も含め、何としてでも泉姫へと覚醒させるのだぞ。」
阿波花がそう諦めれば、お開きとばかりに私と五光、百歳は順に部屋を出る。
五光が全員揃うと厄介だと思う。彼らは各々個性が強すぎて相手をするこちらが疲れる。
「あ、梨聖。
これからお茶に致しませんか?
梨聖の好きなお茶菓子も用意させましたのよ。」
理事長室の扉を閉めた所で、百歳が唐突に提案した。その言葉に時間を見たら丁度よくティータイムの時間帯だったので、参加させて頂く。
それに私のお茶菓子の好みは百歳がよく知っている。
『是非、行かせて頂くわ。』
そう言いながら小さく頷けば百歳の顔に花がほころんだ。
しかし、日中引き込もっているせいか、私の体力はあまり持たない。
『…………………。』
未だ後ろで私達の会話を聞いていた五光を振り返り、長身のいろはを見上げた。
「…………………。」
いろはも無言で私を見下ろすと、しゃがんで私の腰と膝裏を片手ずつ抱えて引き寄せた。世間一般ではこれをお姫様抱っこというらしいが、私にとってみたら移動手段でしかない。
いろはとは何回もしているやり取りなので、もうそこに言葉は要らない。