Brothers Conflict 夢

□椅子取りゲーム
1ページ/13ページ



4月に入り、進学、進級の季節になった。それは私も例外ではなかったのだが、私の場合4月の麗らかな春の陽気を感じる暇もなく、もう暦は夏である。

『何で三年生になったと思ったら、もう夏休みなの……!?』

有り得ない、と嘆くには深い深い訳がある。弟たちも入学・進学して春を感じていたのだ(因みに風斗は陽出高校へ入学、祈織は城智大学へと入学した)が、私は進学してとても忙しなく動かなくてはならなかった。


『夏休みバイトしようと思ってたのに……何で!?』

カタカタと手を動かしても消費出来ない文字の羅列。進学して単位の余裕に浮かれていたら、自分の役職に気が回らなかった。

「音緒、なんで実行委員長なんてやったの〜!
一緒に遊べないじゃん!!」

『私に言わないでよ……明慈祭の実行委員長は生徒部の先生からの推薦なんだから』

明慈祭…明慈大学の大学祭は11月。季節は一つ先なのに、本校は学生が主体となる企画が多く、実行委員は夏休みを潰して奮闘するのだ。
今年の実行委員長は私に推薦され、今の今まで役割をすっかり忘れていた。

さらば、私の楽しい夏休みぃ……!




「今年実行委員長なら、ミス・コンには出ないんだ??」

先程まで愚図っていた友人は、ニヤニヤと下品な目で聞いてくる。

コイツ、二年前からミス・コンに強制参加されられている私を知ってて言ってやがる……!!

『流石に実行委員長に推薦されてミス・コンでも推薦されたら溜まらないよ……』

そうならない様に全力を尽くしたい。
明慈のミス・コンは推薦された女の子の中から学生や教員により投票され、その選抜された女の子達はミス・コンの委員長による面接を乗り越えて、やっと舞台に立つ事が出来るのだ。

何故希望していないミス・コンに出なければいけなかった、私。
そして何故二年連続ミス・明慈に選ばれた、私。


『はぁ……』

今年は絶対に推薦を蹴ってやるぞ。
今年の私には実行委員長という肩書きがあり、それ相応の権力があるのだ。それを駆使しない手はない。

「でも音緒の伝説は後世に語り続けられるだろうねぇ〜」

カタカタと高速でノートパソコンのキーボードを打つ私の隣で、無駄にテンションの高い友人。

『恐ろしい、恐ろしい……。
その話しはもう止めて』

様々な事柄が重なって、生気が無くなっていく。もしや友人に吸いとられているのではないかと思い始めてきた。


「ミス・コン嫌すぎてステージ上で暴れ始めたのはウケたわ」

『人を不良みたいに言わないでよ』

「大暴れでしょ、あれは。
学校の評判下げようとして、ペアの男の子と濃厚キスしてさ〜あと、ミス・コンでファッションショーした時に音緒はストリップ始めたんだよね〜」

あとは、何だっけ……と思案し出した友人にはゲッソリだ。ペラペラとよく滑る口をホッチキスで留めてあげたい。

友人が喋っているのは私の黒歴史。
ミス・コンに出て優勝を競う事が嫌で、舞台上で男の子と濃厚なキスをし、ファッションショー審査ではストリップをかましてやった。
これで学校側への報復が出来た、と達成感を感じ満足していたのだ。


『今思えば恥ずかしい……』

その件で学校からお咎めを受けたが、明慈祭を見に来ていた高校生らが興味を持ち、願書の数が過去最高だったそうな。

「というか今更だけど、これは何打ち込んでんの?」

友人は私との距離を縮めながら、パソコンの画面を覗きこんだ。

『えーと、明慈祭の企画案に予算案、会場借り上げの振り分け予定書、模擬店のアンケート、ステージ依頼の書類とか現場責任者承認の書類、組み立て業者依頼の書類……パンフレット、招待状……』

「もういいよ」

傍らに積み上げられたコピー紙を確認しながら、必要な書類を挙げていけば告げ終える前に根をあげたのは友人の方であった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ