ヴァンパイア騎士 夢

□本能
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『ふんふんふーん、ふんふーんふん』


鼻歌を歌ってしまう程、今の私は機嫌がいい。
甘い匂いに包まれながらお菓子の出来上がりまでシンクで洗い物をしていると、ひょっこりと拓麻が顔を出した。


「やっぱり莉緒ちゃんだ!
ねぇ、それ誰にあげるの??」


『ん〜?秘密よ』


拓麻を見ずに答えると、彼は後ろから近付いて私の肩へ顎を乗せた。
彼の綺麗なブロンドの柔らかい髪が頬や首筋に当たって擽ったい。


「莉緒ちゃんの手作りなら尚更食べたいな〜」

駄々をこねる大きい子供。
可愛らしくて頭を撫でたくなるが生憎手は水と泡がついている。綺麗な髪に申し訳なく躊躇うと、拓麻はもっと拗ねたら、


『分かったから。……特別よ?』


「ホント!?やった〜!!」

さて、買い貯めしておいた材料で足りるかと思案を始める。
本当に嬉しそうに喜ぶ拓麻を見て、私を折れさせたのは彼なのだが気苦労も忘れさせる程の笑顔に癒されるのも事実。
枢もこんな風に笑えればいいのに……。


「じゃあ、楽しみにしてるね」

音符が語尾につきそうな、お尻から尻尾がみえそうな、そんな拓麻を見送って授業が始まる前にチョコレートが完成すればいいけど……とため息を吐いた。







「……随分と眠たそうだね」


月の寮のロビーで枢の隣に立った時、彼には全てお見通しだった。


『まぁね……今日は聖ショコラトル・デーよ?
女の子が好きな人にチョコレートを贈って告白する日。女の子の一大イベントじゃないの』


寮の扉が開かれた時、女の子の黄色い声で鼓膜が震えた。それだけ今日は気合いが違う。

「夜間部の皆さんは沿道に並んでるご自分のゲートに立って一列に並んだ女子たちからチョコを受け取れるだけ受け取ってあげて下さい!!
ご協力お願いします!」


優姫が意気込んで説明するや否や藍堂英は自分の名前が掲げてあるゲートへ一目散に駆けて行った。
枢がそれを窘めるが、優姫はそんな枢を見て頬を染めている。


『……優姫っ、枢にあげないの?
早くしないと教室まで行っちゃうわよ』

コソコソと話し掛ければ顔を更に赤くして俯いた。モジモジとする優姫の可愛らしさに微笑むが後悔はして欲しくない。


「あ、あのっ……お名前は!?」


さてどうしようかと考えていた時、傍から普通科の男の子に声を掛けられた。

『莉緒よ。
昨日から夜間部に編入したから……知らないのも無理ないわね。
よろしくね……えっと』

「あっ………影山と申します!!」


見覚えのない顔に警戒心を持っていた彼だが、微笑みながら手を差し出すと顔を真っ赤に染めながら握手に応じた。
近くにいた普通科の生徒たちも私の顔を見て桃色のため息を吐いた。
当然だ、吸血鬼の容姿は見目麗しく出来ている。


『では、また機会があったら皆さんもお話しましょ』


一言ことわっておいて近くにいた筈の優姫を探すが居なくなっていた。
すると丁度寮と校舎の中間で箱に包まれたチョコが宙に浮いた。
軌道を描きながらそのチョコが渡った先は枢の掌。

やるじゃない、零。

零が優姫の焦れったさに痺れを切らしてわざわざ枢へ投げてやったのだ。


『…………零?』


ふと彼の様子を遠目で伺うと顔色が少し悪い。優姫が藍堂英に構っているうちにふらりと姿を消した。
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