華アワセ 夢

□鬼札の気まぐれ
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華園は箱庭


結界をはって、規律や掟を作って
何かを守るように
何かを隠すように


私は泉姫候補


華園から一歩も出ずに、自分の殻に閉じこもって
何かに脅えるように
何かを期待するように







「梨聖、こちらに居らしたのね。」


『あら、百歳。』

華園の中の温室で、花々に囲まれながら私達は話しを進める。
この温室だけは居心地が良く、私のお気に入り。
私の右手人差し指には大きな蝶――紅が羽根を休めていた。


「理事長がお呼びですわ。
紅の件以外にお話がある様で…。」


百歳は薄い桃色の髪を揺らしながら首を傾ける。

私の右手に鎮座する蝶々の紅は、この学園の理事長の寵愛を受けるものだ。
紅が私に懐いてくれていても、籠から出すのはお怒りに触れるらしい。


『あぁ…鬼札に浮気をされたのよ。』


紅を愛でながら感情を吐き出せば、百歳は慌てた声を発する。


「まぁ、それは大変です事!
直ぐにでも理事長室へ行かなくてはなりませんわね!!」


私の腕を組んで引っ張るので、紅は驚いて私の指から離れていった。
温室も後にして、学園の廊下をツカツカと歩く。

「それにしても梨聖が浮気されるなんて有り得ませんわ!
こんなに壮麗で愛らしくて艶やかで、とっても優秀ですのに!!」


興奮に身を任せている百歳は自らの歩く速度が次第に早くなっている事に気が付かないでいる。



『私…百歳が好きよ。』


百歳も可愛いし、世話焼きで私を気にかけてくれて、その上好きだと言ってくれる。
優しいだけでなく華遷も強くて水妹の中で一番の地位に居る。


「嬉しいですわ、梨聖!!
私たち両想いだったのですね!」


ぴた、と百歳の足が止まり勢い良くこちらを振り向いた。
満面の笑みで私の瞳を見詰める彼女は何か誤解をしている様に見えるのだが、嘘を言った訳でも無いので放っておく。












「失礼致します。
梨聖を連れて参りました。」


大きくて厚い扉の向こうから返答の声がして、その扉は漸く開かれる。
百歳の背中を見ながら部屋へ入ると、五光の四人も居たらしく私を見て驚いた。唐紅だけはニヤニヤとこちらを不躾な目で観察していたけれど。


「梨聖、お主また紅を…」

『ねぇ、金時。
浮気される女の気持ち、考えた事があって?』


手を胸に当てながら伏し目をする。わざわざ金時花を遮ったのはその件に触れて欲しくないからだ。
ついでに誘い水を少し垂れ流せば、当然釣れるのは唐紅。


「紅様が慰めてやんぜ?
オラ、こっち来いよ。」

「こら、止めんか唐紅。
梨聖も意味なく誘い水を振り撒くな。」

今度は阿波花が口を開いた。
只でさえお前はいつも大量の誘い水を放っていると云うのに…いくらコントロール出来ても…
とブツブツ小言を言うが唐紅と同じ様に無視を決め込む。



『……蛟』

「は、」


蛟の名を呼べば、直ぐに反応を返してくれる。頭を軽く垂らしているので、何だか服従させた気になる。


『選ぶのは…貴方。』


垂れた頭の下に身体を滑り込ませ、胸に手を添えてみる。
焦りの声と強い視線を感じる。
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