短編
□流星群
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のぞみは星を見るのが好きだ。いや、宇宙そのものが大好きだ。
晴れてる日には必ず夜空を見上げて天体観測しているし、そうでないときは、例え空が曇っていようと時折雲間から見える月を眺めているくらいだし、よく宇宙に関する本も読んでいる。
だから宇宙で過ごした事があるノヴァに会うと、大抵彼が体験した宇宙での出来事の話――いわゆる思い出話――を聞いて盛り上がる。
その時の表情と言ったらもう本当に楽しそうで、どんな時よりもキラキラしている。
「(なんだか嫉妬しちゃうよ、僕だって何度か宇宙に行った事はあるのにさ。)」
自分が傍にいても、ノヴァがいるとまるで僕の事は眼中にないようになってしまう。もちろん、彼女に悪気はないし、自分もそれは十分分かっている事だが…。
「スパイディー、大丈夫?」
「えっ?」
己を呼ぶ声にハッとして顔を上げた。
そうだった、今は彼女と一緒に天体観測に来てたんだった。
ちょうど今日は流星群が見られる日らしく、そのことを彼女から聞いた時に、もしよければ自分と行かないかと誘ったのだ。
他の人に彼女を取られたくない(以前別の流星群の時にはノヴァに取られた)というのもあったし、何よりも星も宇宙も大好きな彼女なら、流星群を見せてあげたらきっと喜んでくれると思ったから。
「えっ、じゃないってば。ずっと下向いてたけど、もしかして気分悪い?」
「まさか、そんな事ないよ!ただちょっと考え事しててさ。」
「考え事?」
「そう。一体どれくらいの確立で流星群が空を飛んでるバケツ頭にぶつかるかなと思って。」
「あっははは!もースパイディーってば何考えてるの!それノヴァが聞いたら怒るよ!」
突拍子もない言葉に噴出した彼女は、「スパイディーってほんとに想像力豊かだよね。」と笑う。
「まあね。時々小さい天使の自分と悪魔の自分も出て来るよ。あいつら放っておくとすぐ喧嘩とかになっちゃうんだよね。」
「天使と悪魔のスパイディー?!」
一体何を想像したのか、それとも自分のセリフが受けたのか、途端けたけた笑い出す彼女に釣られて笑う。
「スパイディーってやっぱり面白いね、一緒にいて凄い楽しい。」
「!」
あれ今彼女僕といて楽しいって言った?
わおどうしよう、こんな不意打ち予想してなかった!
思わず頬が緩んだら、「スパイディー今度はにやにやしてどうしたの?」と不思議そうに見つめられた。
「はは、ごめん何でもないんだ――あ、のぞみ、あれ!」
「え?――わあ…!」
自分が指さす方向を見た彼女は、途端ぱあっと輝くような笑顔を浮かべた。
――流星群のお出ましだ。
次々と流れ落ちてくる星々に、彼女は釘付けになる。
普段あまりはしゃぐことのない彼女が、星を見て無邪気にはしゃいでいる。
「見て見てスパイディー!すごいよ!」
「うん、すごいね…ずっと続けば良いのにな。」
嬉しそうに、楽しそうにしている彼女の姿を見て、自分でも気づかぬうちに顔が緩んでいた。
彼女と一緒に来れて本当に良かったと思う。
そして同時に、彼女とこのままこんな風にずっと二人っきりでいられたら良いのになとも思う。
「ほんと…ほんとに綺麗。スパイディー、連れて来てくれて、誘ってくれてありがとう!」
そうやって、それまでのどの笑顔よりも素敵な笑顔を向けられたものだから。
「…どういたしまして!」
動揺して、それでいて胸がとっても熱くなったんだ。
そしてその時、僕は思った。
君は空を流れる星々が綺麗だと言うけど、
――君の方が、あの星たちよりもずっとずっと綺麗だよ。
「…、…。」
出掛かった言葉に、慌てて口を紡いだ。
想像の中ではすんなり言えるのに、現実では最初の一文字すら言えないなんて。
おしゃべりは得意なはずなのにな、僕。
いざと言うときに言葉を発せない自分に酷くもどかしさを感じる。
「(…でも、)」
再び星に夢中になっている彼女の笑顔を見て、もうしばらくは、今のままで良いかなと思った。
――でもいつか、いつの日かきっと、伝えるんだ。
無邪気で幸せそうな君は、僕が想いを告げたその時、一体どんな表情になるんだろう。
持ち前の想像力を膨らませて、彼女に分からないようにこっそりとマスクの下で笑いながら、僕も彼女が見るのと同じの夜空を仰ぎ見た。
――いつの日か、必ず。
だって、こんなにも君の事が大好きだから。