短編
□それをヒトは○○と言う
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「はあ…。」
「…。」
「はぁあ…。」
「…お前、さっきから溜息ばっか吐いてどうしたんだよ。」
美波里公園にて、只今スパーリング中のHF一期生(チームAHO)&二期生たちの様子を見学していたのぞみは、何やら遠い目でベンチに座っていた。
見ているようで見ていない。そんな様子を見兼ねて、ブランコの上に立って同じく見学をしていたケビンマスクが、のぞみに近づいてそう問うた。
「ん?ああ、いや…ちょっと考え事…。」
「考え事?」
「うん…はあ、あたし可笑しいのかな…。」
「どうした、言ってみろ。」
「笑わない?」
「話の内容による。…オイ待て冗談だ。
笑ったりしないからそのゴミを見るような目は止めろ。」
遠ざかろうとしているのぞみの腕をがしりと掴むとまた元の位置に戻った。
「あのさ…気になるんだ。」
「何がだ。」
「…ウォーズマンさんのことが。」
「へえ、ウォーズマ…ウォーズマン?」
思わず聞き返す。
つーか、気になるってまさか…いや、まさかな…。
リングでスパーをやっていた者も周りで準備運動やら何やらをやっていた者も、いつの間にやら動作を止めてこちらの話に耳を傾けている。
「うん。あのヒト見てると、何かドキドキして、こう…胸がきゅってなるっていうか…。あとね、たまに一緒に話したり一緒にいることがあるんだけど、それだけでも凄い楽しくて!」
今までこんな事無かったから、一体これがどういう意味なのか分からなくて、と困り顔でしかしどこかキラキラとした目で見つめてくるのぞみに、ケビンマスクは…いやその場にいた全員が度胆を抜かされた。
ある者は青ざめ、またある者は興味深そうに笑った。中にはぴゅうと口笛を吹いた者もいる。
「お、お前それって…。」
――恋、なんじゃないのか。
そう言おうとしたが、それは出来なかった。
言ってしまったら、彼女を手に入れるチャンスすら二度となくなってしまうような気がして。
それに…、
「のぞみ駄目だ!伝説超人とじゃ歳が離れすぎている!」
「そうだ!どうせなら俺たち、いやこのガゼルマンにしろ!」
「えーそこはこの僕ちゃんでしょ〜!」
「あれ、万太郎の兄貴には凛子ちゃんがいるでねえが?」
「ギクっ。」
「そうですよ先輩!のぞみさん、ここはこの俺をッ!」
「キョキョ、今日は何時になく積極的だなジェイド。」
「つーかお前ら必死だよな。見ていて面白いぜ。」
「グギガガガ、そういうスカーフェイスだって狙ってるんだろ。まったくこれじゃあ三つ巴どころの話じゃねえよな。」
とまあ、こんな具合に全員話に乱入されたため答える暇すらなかった。
一方でのぞみは何が何やら分からないらしく、迫る彼らに目を丸くしておろおろしていた。
「え、ちょっ、みんな何のこと話してんの?」
「そりゃあ誰がなるか競り合ってるんだろ。」
「は?」
「だから誰がお前の彼s「黙れスカー。」っで?!ケビンテメェ何しやがる! 」
「煩ぇ。」
むっすーとした表情のケビンマスクにのぞみは首を傾げた。
彼はその様子をちらと一瞥してから、突然すっくと立った。
「ケビン?」
「のぞみ、行くぞ。」
「わっ?!ちょ、ちょっと!」
こちらの手を引っ張り有無を言わさず立ち上がらせてきた彼に前のめりになりながら付いて行き――というか力の差がありすぎてそうするしかないのだが――不満げに「いきなり何だよもう!」と彼を見上げた。
「何でもねえ。」
「何でもないなら離せこの鉄仮面!」
「断る。急用を思い出した、付き合え。」
本当はそんなものなんてない。
ただ彼女の意識をこちらに向けたかっただけだ。この場にはいないウォーズマンでもなく、そして一緒にいる正義超人たちでもなく、あくまで自分ただ一人だけに。
どうせ一時のことにしかすぎないことは分かっているが、しかし今はこれで十分だ。
例え相手があのウォーズマンだったとしても、簡単に諦めるつもりは自分には更々ないから。
「あーあ、連れてちゃった。」
「ったくケビンの奴め、抜け駆けしやがって…(ここで割りこんだら確実に殺されるな俺たち)。」
「アイツがライバルだなんて俺に勝ち目ないじゃないか…!」
「そう言えばガゼルマンってケビンマスクに瞬殺されてたって万太郎の兄貴から聞いたなあ。」
「なッ、おいコラ万太郎ッ!あれは言うなと言っただろう!」
「ひぇえええ!」
「(絶対負けない、絶対負けてなるものか…!)」
「ほんっとお前らよくやるよな。あとジェイド、変なオーラを出すのは止せ。」
「グギガガガ、だからそういうお前も「それ以上言ったらその頭地面に突き刺すぞ。」冗談に聞こえないのがまた恐ろしいな。」
「キョキョ。…あ、蹴った。」
無理やり引っ張っていくケビンマスクの脚にガスッ!と蹴りを入れたのぞみの後ろ姿が見えた。
しかし当然ながら彼はビクともせず、逆にのぞみのことをひょいと抱き上げて(しかもお姫様抱っこ)いよいよ脱出不可能な状態にさせた。
後ろからそんな彼らの様子を目にし、公園に残された一同は「はあ…。」とそれぞれが色んな意味で溜息をついた。
「あーもーいい加減離せよー!」
「お前はいい加減観念して大人しくしたらどうなんだ。」
顔を真っ赤にしながら抗議するのぞみに、彼は内心ほくそ笑んだ。
2014/09/03
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以上、初ケビン夢でした(笑)
最後、"それぞれが色んな意味で溜息をついた"とありますが、
・なんやかんやで仲良さげに思える2人が羨ましい
・夢主のこととなると半ばムキになっちゃうケビンにやれやれしてる
・最後はいつもケビンにああやって夢主を取られちゃうので敗北感を感じている
などなどの意味を含んだものです(笑)
ちなみにミート君は遠巻きに皆の様子を苦笑しながら見ていますw