短編

□アクシデント
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「ブロ〜!」

「うおっ!?わっ、なんっ、おまっ!いきなりどうしたッ?!」



 突然リビングのソファで読書をしていた自分に抱き着いてきたのぞみに、ブロッケンJr.は酷く動揺した。

 なんだこの状況、いや凄く嬉しいけど。



「えへへ、ブロだ〜。」

「お、おう…。」



 抱き着いたままぽわんとした笑みを浮かべてこちらを見上げてこられ、色々と堪えるものがあった。

 何これ超可愛い。その上自分の名前を呼んでくれてるとか!



「ブロ、ブロ、ぎゅってして?」

「ぎゅって…はあッ!?」



 こてん、と小首を傾げてきたのぞみを凝視する。

 ああ、そんな仕草も可愛い…ではなく、一体彼女の身に何が起こった。


 自分たちは恋人でも何でもない。
 それに彼女が誰かに甘えたことなんて今まで見たことが無いしあり得ない。
 自分に対してこんなおねだりをしてくるなんて、彼女に何かあったとしか考えられないのだ。

 もしソルジャーたちがこの事を知ったら、恐らく大騒ぎになるだろう。
 ニンジャはともかく、こんな状態ののぞみを放って置くなんて絶対に無いはずだ。特に緑の迷彩柄な男は。



「(だが騒いでねえって事はまだ知らねえってことか…ん?ってことは俺、今はのぞみを独り占め出来るってことか?!)」



 ここで読書してて良かった!と内心ガッツポーズを決め、だらしなく口元を緩める。
 いつも大抵他のメンバーにのぞみを取られてしまうのだ。これをニヤケずしてどうしろと言うのだ。



「ねえブロ、ぎゅーまだ?」

「っ!い、今してやるから!」



 そのまま衝動のままに抱きしめてやったら、「えへへ。」と嬉しそうに頬ずりされた。



「…ッ!…ッ!!」



 耐えろ!耐えるんだ自分…!


 もう1人の自分を何とか抑え、しかしそれもあと数瞬で消え失せてしまいそうになったその時――グットタイミングなのかバッドタイミングなのかそのどちらとも言えるこのタイミングで、部屋にニンジャが入ってきた。


「のぞみ!ここに居ったか!」

「ゲッ、ニンジャ!」

「わあ、ニンジャさんだ〜。」

「俺たちもいるぜー。…ってお前ら何してんだよ!」

「何だ…って、ああ!こらブロッケン!私を差し置いて何をやっているんだ!」

「カカカッ、なかなか面白い画だな。頭に来るが。」
 


 こちらを見た瞬間、ニンジャ以外の全員から殺気のプレゼントを貰った。

 うわヤベエな何だこの修羅場…。



「ええい、お主らそんなことをしている場合ではなかろう!」



 ギロリと後ろの3人を睨みズンズンこちらへ歩んでくるニンジャに、「あ、違っ、これはその!」と弁解を試みた。



「何を焦っているのだお主。」

「…えっ?」



 あれ、いつもだったらここでド突かれるんだが…。



「ニンジャさん、あのね〜今ね〜ブロにぎゅーってして貰ってるの。」

「見れば分かる。ほら、こっちに来ぬか。お主もさっさと離せ。」



 くいくい、とのぞみを人差し指で手招くニンジャ。
 反対の手には何か薬のようなものが握られていた。


 彼を怒らせたら不味い。
 若干睨みを利かせられて言われたので渋々と腕を離すブロッケンJr.…なのだが。



「やだ!ブロが良い!」

「ぶっ!?」



 思わず吹いた。



「お、おおお俺が!?今俺が良いって言ったか!?」

「うん、言った〜。」

「のぞみ…!」



 ああなんて幸せなんだ…。

 破顔していたら、ゴスッ!とニンジャに頭をぶん殴られた。



「でッ!?テメッ、何しやがる!」

「いつまでもデレデレしておるお主が悪い。のぞみも駄々を捏ねていないでこちらに来てコレを飲め。」

「やだー。」



 ぎゅっ、と一層強く抱き着かれた。
 そしてアイツらの殺気もさらに増した。

 何て状況だよこれ…。



「まったくこれでは埒が明かんな。」

「ぐむ〜、何て羨ましいんだ!」

「黙って居れソルジャー。
大体、元はと言えば貴様が悪いのだぞバッファローマン!」

「俺のせいかよ!」

「カカカッ、どう考えてもそうだろうが。普通あれにビールを入れるか?」

「はっ?」



 「ビール?」と目を点にする。



「おい一体どういうことだよ。」

「この牛が普段茶を入れている容器に何をどう間違ったのかビールを入れおってな。」

「仕方ねえだろ酔ってたんだから!つーか牛じゃねえバッファローだ!」

「どっちでも同じだろう。それにどの道貴様の所為だろうが、昼間から飲む馬鹿がどこにいるのだ。」

「誰が馬鹿だ!」

「まあそう言うワケで、中身がビールだと気づかずに飲んでしまったようでな、そのザマってわけだ。
しかし何故私ではなくお前なのだ…!」

「いや言われてもな…。」



 アンタの場合いつも下心が丸見えだからじゃねえのか、なんていう言葉は心の中に仕舞っておく。



「しかし…そうか、ビールの所為だったのか…。」



 確かにまあ、突然こんな風に変貌してしまうなんて少し変だとは思っていたが…まさかその原因がビールだったとは。
 ちょっとガッカリである。何が、というのは聞かないで欲しい。



「何を落ち込んでいるのだ貴様。もしやこいつが自分に惚れたとでも思ったのか?」

「なっ!そんなんじゃねえ!」



 カカカッと小馬鹿にしたように独特な笑い声を響かせるアシュラマンにムカッときた。

 お前だって俺と同じ立場になったらそんな風に笑っていられねえからな、絶対!



「からかってやるな。まあそう言う訳だ、のぞみの身体に何か影響が出る前に早く薬を飲ましてやらんといかん。」

「影響?」

「日本では20歳未満は飲酒禁止だ。それなりに理由があるからそういった決まりがある。それくらい分かるであろう?」



 つまり未成年でビールを飲んでしまったのぞみをそのまま放っておくのは駄目ならしい。
 ちら、と未だに自分に引っ付いているのぞみを見下ろす。

 せっかくいい気分だったのに残念だ。



「気分が悪くなる可能性もある。だから薬を飲ませておくのだ。
それとバッファローマン、のぞみの酔いが醒めたら全力で土下座しておけ。」

「そこまでやる必要あるか?…分かったやる。スゲエ反省してるし土下座もする。だからそのクナイは仕舞え。」

「分かれば良いのだ。さあ、これを飲ませてやれ。」

「お前が飲ませろよ。この状態なんだぜ?」



 この状態、とはもちろんのぞみに抱き着かれてる状態のことである。



「拙者が飲まそうとすると逃げるのだ。お主がやってくれ。」

「あー、分ぁったよ。」



 す、と手渡された薬を受け取ったが、「…ゲ、この臭い…。」と鼻を掠める臭いに顔をしかめた。



「いかにも。拙者お手製の“漢方”でござる。」

「やっぱりな…。」

「でもどうするんだよ、ソイツ寝ちまったぜ?」

「何!?」



 通りで静かだったわけだ。
 バッファローマンの言葉にそちらを見ると、確かに寝ていた。

 俺に、抱き着いたまま、幸せそうな寝顔で。



「ブロッケンJr.、今すぐそこを変わるんだ!」



 凄い勢いでソルジャーが迫ってきた。



「少しは自重せぬかこの変態が!」

「グベッ!」



 ドゴォオオンッ!

 ニンジャのフライングキックを食らい、そのまま壁にめり込んだ。
 うん、まあ何というか自業自得である。



「にしても寝顔も可愛いな、こいつ。」

「うむ…そうだな。」

「これで普段がもっと淑やかだったら文句なしなのだがな。そうでないからこそ逆に良いのかもしれんが。」

「つーか今更女らしくされてもな。」



 めり込んでいるソルジャーは置いといて、他の皆がのぞみの顔を覗き込んできた。



「はあ…こうなっては仕方ないな。ブロッケンJr.、のぞみをベッドに連れて行って寝かせてやれ。漢方は起きてからでいい。」

「ああ分か「それとくれぐれも変な気は起こさぬようにな。」俺ってそんなに信用ないのかよ?!」



 何もしねえよ!とニンジャに叫んだ。



「分かって居る、少しからかっただけだ。」

「カカッ、質が悪いな。」



 まったくもってその通りである。



「ま、仮にもしそんなことがあったら俺のロングホーンで一突きしてやるがな。」

「だから何もしねえっつってんだろうが。」















 その後散々からかわれた挙句、ようやくのぞみの部屋に着いた。

 他の皆はリビングで待つことにしたらしい(ただしさっきの攻撃から復活してのぞみを奪おうと襲ってきたソルジャーはニンジャに再度沈められた)。


 そう言えばこいつの部屋に入ったのは始めてだな…なんて考えながら、ベッドに優しく下ろして布団を掛けてやった。


 くーくーと寝息を立てながら眠っているのぞみの、なんて穏やかなことだろうか。



「しっかし飲む前にビールだって気づかなかったのか?お前。」



 苦笑しながらやんわりと頭を撫でてやると、寝ているはずなのに幸せそうに笑みを浮かべられた。



「(畜生、可愛いな…。)」



 その様子に見事に打ち抜かれながらも、押さえるんだぞ自分、と言い聞かせた。


 けれど、薄らと開いた唇やこの無防備な状態…さっきはアイツらにあんなこと言ったが、今にも色々と決壊しそうだ。…というか半分は決壊した。


 確認するように周囲を見やった。
 誰も来てない。気配もない。



 片手をベッドに付き、寝ているのぞみの顔を覗き込んだ。


 もし先程の事が酔った所為での行動じゃなかったのなら、どんなに良かっただろう。
 自分のことを好きになってくれて、それでああいうアピールというか何というか…をしてきてくれたのなら、どんなに嬉しかっただろう。

 いくらこちらからアピールをしても全く気付かない彼女。
 そこが彼女らしいと言えばそうなのだが、今回のこともあってそろそろ限界が来ていた。


 自分のものに、自分だけの"のぞみ"になってくれれば…と彼女の頬に手を添えた。



「…、のぞみ。」



 顔を近づけ、額に、頬に、…そして唇に夢中でキスを落とした。
 ちゅ…とリップ音を立てて口を離す。



「…、…(やっちまった)。」


 羞恥と後ろめたさで、まるで顔を隠すかのようにして、軍帽の鍔を持ちグッと深く被り直した。
 けれどその行動とは裏腹に、不思議と後悔はしていない。



 彼女が、欲しい。
 けれど、けれど今はまだ、このままで。少なくとも自分が彼女に思いを告げるその時までは。
 そしてその時は今度こそ、自分が本気なのだと彼女に気づかせるのだ。


 そう決意し、踵を返して部屋の出口に向かう。
 これ以上いたらきっと自分を抑えられないから。



「ん…ブロ……。」

「…!」



 驚いてバッと振り向いたが、彼女は眠っていた。
 寝言で己の名を呼ぶ彼女に、もしかしたら"その時"はそんなに遠くないのかもしれないと思った。
 それと、自分の理性がいよいよ危ないことにも気づいた。



「…覚悟しろよ、のぞみ。」



 必ずお前を手に入れてやる。

 ふ、と笑ってみせて、それから俺は部屋を出た。
 …危うくあのまま襲いそうになってしまった、なんてことは秘密だ。

























 (そして次の日のこと、)



(「ああよく寝た(でも何で頭痛が…)。
あ、ブロ!あたし今日ブロが出てくる夢見たよ!」)

(「ハハ、そうか…。なあ、のぞみ。話があるんだ。」)

(「何?」)

(「あのな、俺、お前のことが――。」)



 (こんなことがあったとか、なかったとか。)


















2014.08.20
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ブロ、良いですよね!

それと夢主、ビールとかのアルコール類に凄く酔いやすい設定です。未成年ですし(笑)
しかも酔うと、普段ひとに対して隠してる感情とか思いとか行動とかもさらけ出し〜みたいな。
ちなみに酔った夢主は、ブロにだけああいう行動をしました。
つまり夢主は、ブロにああいった行動したかったし、ブロに抱きしめられたかった=元々ブロに気があった…という(笑)

ブロがアピールしてきても気づかないのは、夢主がもとからそう言ったことには鈍感だからです(笑)

そして最後どうなったのかは、ご想像にお任せします^^
勿論ハッピーエンドです!(笑)

 

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