短編
□妬いちゃやーよ
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最近、色々あって“サトシ”とその仲間たちと旅をすることになった。
彼らはどんなポケモンに対しても友好的で私のようなポケモンにも優しく接してくれた。
のぞみ以外の人間にそんな風にされるのは私にとってとても新鮮で、それでいてとても気分が良かった。
彼女の方も彼らと一緒に笑ったりはしゃいだりしていて随分と楽しんでいるようだ。
まあ、別にそれは良い。
彼女が笑っていてくれたりするのは喜ばしいことだし、こちらもそんな彼女を見れて嬉しいと思う。
だが、だがしかし…!
『(近い…!)』
セレナとユリーカはともかく、そう、如何せん男共との距離が近いのだ。
普段の行いや性格からして彼らが何かやましいことがないのは明らかだが、しかしそれでもこのモヤモヤとした黒い感情は拭いきれない。
実のところ、ただ彼らがのぞみと話しているだけでもそれが湧き起こって来てしまう。
もともと自分とのぞみの2人とで旅をしていた――つまり彼らと出会うまではずっと自分が彼女を独占出来ていた――ので、余計に拍車が掛かっているようにも感じる。
――所謂、“嫉妬”というやつだった。
食事中ののぞみのこと(正確にはその近くに座る男共)をジッと見つめる…いや睨みつけていると、不穏なオーラやらに感づいたピカチュウたちにまあまあと宥められた。
『(悪いがこの感情は自分でもどうしようも出来ないのだ。)』
ちら、と自分より小さなポケモンたちを見やってから、す…と音もなく影の中へ消えのぞみの方に近づいていった。
やれやれと言ったような声が聞こえてきたが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
今は夜だ。明かりと言えば、ほんのり光っているランタンしかない。
影の中に入ってしまえば闇に完全に紛れてしまい、結果誰にも(勿論こちらの様子を見ていたピカチュウたちは別だが)気づかれず、のぞみの背後に回れた。
「それでね、――ッうわぁあああ!?」
彼らと楽しげに話していたのぞみに、何の前触れも無しにぎゅうと後ろから抱き着いてやると、面白い程に驚かれた。
というか叫ばれた。
わあああお化けぇえええ!と涙目になりながら必死に逃げ出そうと暴れるのぞみに――ああそうだ。暗いところが苦手な彼女は行き成りこういう事をされると酷く怯えるんだった…――申し訳なく思ったが、今回は止めるつもりは更々ない。
まったくこちらの方に向いていなかった彼女の意識が、完全にこちらに向いているのだ、止められるわけがない。
「のぞみ、よく見ろって!それのぞみのダークライだぞ!」
「えっ?あ、ほ、ほんとだ…びっくりした…。」
振り向いて正体が私だと分かるなり、涙目で「もー、驚かさないでよ…。」と力が抜けてしまったかのようにくたりと寄り掛かってきた。
どうやら相当怖かったらしい。
「あはは。のぞみ、大丈夫?」
「もー、こっちまでビックリしちゃったよ。」
「すっげえ叫び声だったもんな。」
「でもこんな事もあるんですね、彼が貴方を驚かすなんて。」
セレナとユリーカが苦笑しながら、続いてサトシとシトロンが近づいてきた。
待て。前者はともかく何故元々近距離だったお前たちが更に近づく。
それ以上近づくなとギロリと後者2人を睨みつけてやると、「わっ?!あ、あれ、俺お前に何かしたっけ?」と動揺されたり、「ひぃっ!」と短く悲鳴を上げられた。
何かしたか、なんて愚問だろう。
「ちょっ、ダークライ!ごめんね2人とも。」
「いや、良いけどさ。でも突然どうしたんだ?」
「僕たちに何か原因がありそうですが…。」
ああ、大有りだ。
皆の視線を集めても変わらず2人を睨み続けていると、「ああもういい加減止めなって。」と呆れたような、困ったような顔で叱られた。
だが止めない。少なくとも2人が離れない限り。
「あ、もしかして!」
しばらく攻防戦もどきのやり取りが続いていると、唐突にセレナが声を上げた。
「セレナ、分かったの?」というユリーカの問いかけに「うん。」と頷く。
「ひょっとしてだけど…のぞみのダークライ、嫉妬してるんじゃないの?」
『っ!』
まさかの図星にビクリと肩を揺らした。
「え…っ。」
「嫉妬ぉ?」
「僕たちにですか?」
「へーそうなんだあ。」
「だって、ダークライってばいっつものぞみにベッタリじゃない?
その上男の子なんだから、同性と仲良くしてたら妬いちゃうんじゃないかなーなんて。」
物の見事に言い当てられてしまい内心焦る。
何となく、知られてはいけない気がした。プライド的に。
「…、嫉妬。」
半ばぽかんとした様子で呟くのぞみだったが、何故だか次第に口元が緩んでいった。
な、何だ、何なんだ。
「なあ、ニヤニヤしてどうしたんだ?」
「いや…嬉しいなあって。」
『!』
きゅ、と腰に回している手に彼女の手が重ねられ僅かに動揺する。
「嬉しい?」とワケが分からないと言ったように首を傾げる男共とユリーカ。
セレナだけは分かっているらしく、にこにこと笑ってこちらを見守っているようだったが。
「うん。だってさ、それってそれだけダークライがあたしの事好きでいてくれてるってことじゃない?」
『え、あ…。』
ね、とこちらに微笑みかけられてしまいどう答えようかと目を泳がせていたが、やがて観念してこくりと頷いた(あんなに真っ直ぐ見つめられたらそうするしかない)。
彼女が私の“好き”をどの意味で解釈しているのかは分からなかったが、どちらにせよ自分の気持ちが皆に暴露されているようでなかなか穴があったら入りたい気分にさせられた。
勿論そんな所はここにはないので、仕方なく彼女の首筋に顔を埋めてそこだけ隠すだけにした。
「ねえ!のぞみはダークライのことどう思ってるの?」
『ぶッ!?』
まさかの衝撃的な質問に思わず吹いた。
色んな意味で流石はユリーカな気もするが、本人が居る前で聞くか普通?!
「あ、それ私も気になる!」
「俺も俺も。」
「僕も!」
『(便乗をするな…!)』
「あはは…人に話すのってちょっと恥ずかしいなあ。
でも、うん。」
――好きだよ、ダークライのこと。
思わずバッと勢いよく顔を上げて彼女を見た。
「いつもあたしの傍に居てくれるしあたしを支えになってくれるの。
普段は臆病だけど、いざとなればとても頼もしいし安心できるしね。
あ、あとね!凄いカッコいいのに反面凄い可愛いの。今みたいに抱き着いて来たり甘えてきたりとか。
――うん、結論言っちゃうととにかく大好きってこと。
だからね、それもあってダークライが嫉妬したのが嬉しかったの。」
『――。』
あまりの衝撃に、声も出なかった。
私だけではない、その場にいたほぼ全員そうだ。ぽかん、と間抜けなまでに口を開けている。
鈍感なサトシやまだそこそこ幼いユリーカに限っては「へえ〜何だか俺とピカチュウみたいな関係だな!」とか「すごーい!両想いみたいだね!」と笑顔で言っている辺りどうやら普通の“好き”だと解釈したようだが、恐らく違う。
“可愛い”というのは男としては複雑だったが、それはこの瞬間ではどうでも良いことだ。
今しがたののぞみの言葉から考えると、ユリーカが言っていたように、まるで彼女は…。
「ね、ねえのぞみ?それって…。」
「もしかして異性への…。」
「ふふ…うん、多分そう。」
頬がほんのりと赤色に染めてはにかんみながらそう言った彼女に、色々と爆発した。
「あたしが知ってる“好き”と、ダークライへの“好き”って、なんだか全然違うの。だからきっと、ダークライの事は男性として好きなのかなー?って思ったの。
あとさ、もしかしたらダークライの“好き”もあたしと一緒かも?なんて。
ユリーカが言ってたみたいにさ、両想いかもって。」
「〜っ!!」
さっきと同じように、ね?と首を傾げてきた彼女をとうとう直視できず、影の中へ逃げ込んだ。
上から聞こえるのは「隠れないでよー。」と彼女が苦笑する声。
――ああ、まさかこんなことがあろうとは…!
顔を真っ赤にそして体中が熱くなりながら、私は影の中で内心そう叫んだ。
(「あ、そうだダークライ。1つ言いたいんだけどさ…嫉妬してくれたのは嬉しいけど、あたし貴方以外のヒトと一緒になるつもりないから安心していいからね。」)
(『〜〜〜っ!』)
(「「(何だか自分たちが蚊帳の外な気がする。)」」)