叶うならば愛し君の隣で
□叶うならば愛し君の隣で
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都内某スタジオ。
スタッフ達が慌ただしく動き回り、機材を運ぶ音やら掛け声やらで回りが騒がしい。
なんか機械トラブルがあったらしいよ」
スタッフから情報を得た柩が新弥の元へとやって来て報告する。
「まじか。時間かかりそう?」
「たぶんね」
「まじかよ。どんだけ?一時間とかかかったら俺帰っちゃお」
そう言うとるかさんはソファーにもたれかかってぐだぐだし始めた。
「いやいやいや。リーダーがそんな事言ったら駄目だから!」
「暇」
るかは柩の突っ込みを華麗にスルーして辺りをキョロキョロと見回すとふとにその動作をやめた。
「?」
新弥はその目線の先を追って行くと頭のてっぺんに誇らしげにアホ毛を立たせている小柄な人物にぶつかった。
「ゾジー、ちょいとちょいと」
るかさんは言いながらゾジーこと黄泉を手招きした。こちらに合流しようと歩いていた黄泉だったがるかの手招きを見るなりピタリと足を止めた。
「え、何?」
黄泉はどうやら嫌な予感がするようで警戒している様子だ。
「ちょいと」
「え、嫌」
「早く」
「何で」
「リーダーの言う事が聞けないんですかー」
「だってあれでしょ?絶対」
黄泉が側らに居る新弥と柩に問いかける。
新弥は苦笑いしながらるかに目をやる。
「いやあ、何かなあ?」
知っていながら柩はとぼけて見せた。
「いやいやいや。あったかいの時間だよって顔に書いてるもん」
「暇」
「知らねーよ!」
「あっ!!」
るかが声をあげるのと同時に黄泉が逃亡した。
「あいつ覚えてろよ」
るかは小さく舌打ちをしてため息をついた。
「………」
「………」
ふいにるかは新弥を見つめて……微笑みを浮かべた。
「は?」
新弥は後ずさりをする。
が、しかし逃げるのが遅かったらしい。次の瞬間にはるかの腕の中にいた。
「おいおいおいおい!!」
新弥の必死の抵抗も空しくしかと回された腕からは逃れることは敵わなかった。
「…っ!!」
るかの心臓の音や息遣いが直に伝わってくる。
とたんに新弥は自分の顔が火照っていくのを感じた。
勘弁してくれ…!!!
「る、るかさ…」
「うん、新弥でもいいか」
そんな一言を聞いて新弥はふと我に返った。
「………………。」
急に抵抗をやめた新弥にるかは首を傾げた。
「んー?どうし…」
その時だった。
ダンッッ!!
物を思い切り何かに叩きつけたような音がして一同、体を跳び上がらせた。
見るとその発生源は目の前のテーブルに置かれた缶コーヒーだった。それを掴んでいる腕を追っていくとその人物はどS王子こと咲人であった。
「るかさん?黄泉がいないからってあっちこっち手つけて…節操がないなあ」
天使のように微笑みを浮かべるその顔とは裏腹に声はトーンを下げた黒く淀んだ声だ。
「それにもう機材も取り替えたみたいだし、撮影始めるんじゃない?」
「え、何かキレてる?」
「いや?気を引き締めていかないとねって言ってるんだけど?はい、コーヒー」
「いや…このコーヒー、底変形してんだけど…」
「え、飲めないんですか?俺が買ってきたコーヒー」
「いや…………飲む」
タブを開ける音がどことなく小さく聞こえた。
「はい、柩の」
「あんがと」
柩はそんなやりとりを楽しんでいるかのように笑いながらジュースを受け取る。
「ゾジーさんは?」
「逃げた」
「探さなきゃな」
咲人は小さく呟くと新弥にも缶コーヒーを差しだした。
「さんきゅー」
手に取って自分の元へ引こうとしたが咲人の手がそうさせなかった。
「咲人?」
「と思ったけど、新弥はゾジーさん探すの手伝って」
「え?」
咲人の顔を覗くがわざわざ自分を指名した理由がわからなかった。
何か話でもあるのだろうか。
「いいけど」
気になった新弥はついて行くことにした。
「ちょっと行ってくるから。先に撮っといて」
そう言い残し二人は歩きだした。
瞬間、るかは缶を握り潰した。
「るか…さん…?」
柩は驚いてるかを見た。
「…………」
そんなるかの視線はあの二人をじっと捉えていた。