『大好きな嘘』

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…自分の足元に広がる血溜まり。

この光景を見るのはいつ以来だっただろう。

路地裏に積まれる死体の山。

返り血を浴びることなくキレイに殺した。

いつもなら高揚感に笑みの1つや2つ浮かべるところなのに、

「…こんなにつまらないことでしたっけ?」

レイレは蒼白な顔で1人呟く。

虚しさが身体中を支配する。

足りない、何か、何か。

レイレは死体の山に背を向けた。

人殺しが唯一の楽しみだった筈なのに、何故こんなにつまらなくなってしまったのだろう。

レイレは自分の手を見つめ、強く握り締める。

…喪失感。

何をなくしているのか、自覚はあった。

信じたくないだけだ。

「…ヒソカ。」

ふとしたら漏らしてしまう名前。

自分から距離をおいたのに、結局寂しくなる。

会いたい、会いたくない。

矛盾する自分の心が腹立たしい。

…冗談を言えば、笑ってくれる。

一緒に居たら楽しい。

ヒソカの隣が、居心地が良くて…。

ずっと、その場に留まっていたいと思ってしまう。

「ヒソカ、ヒソカ…ッ。」

こんなにも、貴方を想ってしまう。

ダメだと、自分ではわかっているのに。

ポツポツと、空から雫が落ちてくる。

雨はアスファルトに斑模様を描き、徐々に塗り潰していった。

急な雨で駆け出していく人、近くの屋根で雨宿りをする人。

そんな人達を視界の端に入れつつ、レイレは1人ゆっくり道を歩く。

髪から水が滴り、シャツが濡れようとも構わない。

何も、考えたくなかった。


…雨がやんだ気がした。

いや、雨音が聞こえる限りまだ雨は降っている。

自分の頭上だけを避けているようだった。

「…レイレ?」

かけられた声は、もう聞き慣れた、懐かしくもある声。

「どうしたの?こんなところで。」

こんな雨なのに、湿気で跳ねない真っ黒な長い髪が憎たらしいとか、相変わらず無表情な表情は変わらないんだなと、少し思った。

「…イルミ。」

自分の唯一無二の友人がそこにいた。

真っ黒な傘をレイレにかけて、首を傾げるイルミ。

レイレは俯いて、思わず彼の胸に飛び込んだ。

彼は少し目を開いて受け止め、何か言おうと口を開きかけるが、レイレが肩を震わせて泣いているのがわかると、また口を噤む。

「…胸が、苦しいんです…。」




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