『大好きな嘘』

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…自分の耳に届く歓声。

しかし、それはまるで今の自分を嘲笑っているように思えて仕方ない。

「クリティカル!!アンドダウン!!レイレ!!8-0!!」

何が起こったのか、理解出来ず、うつ伏せに倒れた身体を片腕で起こそうとする。

しかし、そんなサダソの行動を知ってか、その頭に足が乗せられた。

「…無理しない方がいいですよ。」

優しい問いかけなど見かけだけ。

サダソはあまりの恐怖に冷や汗を流し、身体を震わせた。

今自分を踏みつける男は善人などではない。

「まだ貴方はボクに傷を負わせるどころか自ら触れてさえいません。そんな状況で今更立ち上がったところで勝ち目などないでしょう?」

じりじりと圧力をかけるレイレ。

かけているのは体重だけではない。

同時にかけられるそれは、一般人には見えないものの、自分にはハッキリと見える禍々しいオーラ。

…格が、違う。

「今ギブアップしてくれるなら、この足を退けて貴方の敗北を快く受け取ります。…ですが、もしまだ抵抗するようであれば…、」

ニッコリと笑みを浮かべ、レイレは平然と言い放つ。

「貴方を殺します。」

嘘などではない。

それは自分に向けられた死刑宣告。

殺意、そう彼から発せられるそれは殺意だ。

精神的に追い詰められても、サダソはすぐに答えない。

否、息の詰まる程の彼の殺気に言葉を発することが出来なかった。

「…それでは、ボクが5つ数えるまでに決断をしてください。」

彼なりの厚意か、あるいはサダソの心理状態を知ってての質の悪い嫌がらせか。

サダソは負けを宣告しよう必死だった。

「ひとーつ。」

兎に角声を出さなければ…!!

「ふたーつ。」

恐怖がなんだ、相手は自分と同じ念能力者だぞ!?

「みーっつ。」

「あ、ああッ…!!」

言え!早く!早く降参を…!!

「よーっつ。」

死にたくない死にたくない死にたくない…!!

最後のカウントをしようとレイレが口を開けたその瞬間、サダソの身体から急に力が抜けた。

思わず足をのけ、レイレは今まさにナイフを出そうとしていた手を止める。

動かないサダソを不審に思い、身を屈めて顔を覗き込んだ。

虚ろな目、口から情けなく垂れる涎と、ピクピクと痙攣する身体。

「サダソ選手、失神によるKOとみなし、勝者レイレ選手!!」

審判の判定に瞬きを繰り返し、思わずため息を漏らす。

「…残念。」

小さな呟きの意図を知るものなどいない。




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