『大好きな嘘』
□22
1ページ/2ページ
…自分の耳に届く歓声。
しかし、それはまるで今の自分を嘲笑っているように思えて仕方ない。
「クリティカル!!アンドダウン!!レイレ!!8-0!!」
何が起こったのか、理解出来ず、うつ伏せに倒れた身体を片腕で起こそうとする。
しかし、そんなサダソの行動を知ってか、その頭に足が乗せられた。
「…無理しない方がいいですよ。」
優しい問いかけなど見かけだけ。
サダソはあまりの恐怖に冷や汗を流し、身体を震わせた。
今自分を踏みつける男は善人などではない。
「まだ貴方はボクに傷を負わせるどころか自ら触れてさえいません。そんな状況で今更立ち上がったところで勝ち目などないでしょう?」
じりじりと圧力をかけるレイレ。
かけているのは体重だけではない。
同時にかけられるそれは、一般人には見えないものの、自分にはハッキリと見える禍々しいオーラ。
…格が、違う。
「今ギブアップしてくれるなら、この足を退けて貴方の敗北を快く受け取ります。…ですが、もしまだ抵抗するようであれば…、」
ニッコリと笑みを浮かべ、レイレは平然と言い放つ。
「貴方を殺します。」
嘘などではない。
それは自分に向けられた死刑宣告。
殺意、そう彼から発せられるそれは殺意だ。
精神的に追い詰められても、サダソはすぐに答えない。
否、息の詰まる程の彼の殺気に言葉を発することが出来なかった。
「…それでは、ボクが5つ数えるまでに決断をしてください。」
彼なりの厚意か、あるいはサダソの心理状態を知ってての質の悪い嫌がらせか。
サダソは負けを宣告しよう必死だった。
「ひとーつ。」
兎に角声を出さなければ…!!
「ふたーつ。」
恐怖がなんだ、相手は自分と同じ念能力者だぞ!?
「みーっつ。」
「あ、ああッ…!!」
言え!早く!早く降参を…!!
「よーっつ。」
死にたくない死にたくない死にたくない…!!
最後のカウントをしようとレイレが口を開けたその瞬間、サダソの身体から急に力が抜けた。
思わず足をのけ、レイレは今まさにナイフを出そうとしていた手を止める。
動かないサダソを不審に思い、身を屈めて顔を覗き込んだ。
虚ろな目、口から情けなく垂れる涎と、ピクピクと痙攣する身体。
「サダソ選手、失神によるKOとみなし、勝者レイレ選手!!」
審判の判定に瞬きを繰り返し、思わずため息を漏らす。
「…残念。」
小さな呟きの意図を知るものなどいない。
.