『執事業務日記』

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…いつもと全く同じ時間に目を覚ます。

目覚ましなどという子供じみたものだと、習慣づけられた自分には不要だ。

ゴトーはいつも通り窓から射し込む朝日で目を覚まし、埃1つつかない執事服に袖を通す。

キッチリとボタンを締め、メガネをかけた。

ゴトーの執事としての1日はこうして始まる。






「…あ、おはようございます。"執事長"。」

部屋から出て広間に向かえば、明らかに自分とは質の違う執事服を着た狐目の新入り。

昨日イルミが連れてきた、どこの馬の骨ともわからない男だ。

「昨日のうちに新しい服を渡した筈だが?」

「すみません。何だか落ち着かないもので…。」

困ったように眉を下げて答えるヴァトラーに溜め息をつく。

まだ前の主人が忘れられないらしい彼は、ゾルディック家の執事としての自覚など持つ筈もなく、ゴトーはそんなヴァトラーを敵視していた。

端から見れば、人当たりのいいこの男。

事実昨日のうちに他の執事達とも溶け込み、尚且つしっかり仕事もこなす。

気が利くし、悪い印象など、あまりないように思える。

けれどゴトーは、それとはまた別に、彼に言い知れぬ違和感を感じていた。


…その笑顔の裏側に、いったい何があるのだと。


部屋の隅の小さな棚の上の花瓶に新しい花をさす。

「…ここの花達は、とても綺麗に咲くんですね。」

目の前の花を見、彼は呟いた。

庭に咲いていたものだろうそれは、ゴトーにも見覚えがあるもの。

その花弁を白い手袋越しにそっと触れ、彼は笑う。

「この花は、"ブライアーローズ"という名前の薔薇です。あんまり薔薇らしい花ではありませんが…。」


「花言葉をご存知ですか?」

不意な問いに、思わず『はあ?』と間抜けな声をあげた。

ヴァトラーは表情を変えずにゴトーを見やる。

まるで悪戯をするような、無邪気な笑み。

「…いえ。少し女々しいことを言ってしまいましたね。忘れてください。」

「…。」

彼はゴトーの横をすれ違うようにして通り、次の仕事へと向かった。

ゴトーはそんな彼の背中を見つめ、花瓶の花に視線を移す。

「…花言葉?」

彼の心理は、いったい何なのだろうか。

ゴトーはそんな疑問に思わず首を傾げた。








"楽しみと苦痛"
(まさにその花は、)
(私の心境)


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