『執事業務日記』

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…試しの門は、4の数字で開く。

自分より先に入ったイルミが、『まあまあだね』と少し厳しい評価をした。

苦笑を漏らして、進む彼の後に続く。

ククルーマウンテン全てがゾルディック家の敷地。

改めて見ると、想像していた以上にそれは広大で、この暗殺一家がどれだけ力を持っているかがわかる。

生い茂る木々、生き物たちの声、高い死火山。

あまり見慣れないその風景は、見ていて何だか新鮮だった。

「…一応言っておくけど、」

こちらを向かず、イルミは淡々と言葉を発する。

「うちは、あいつの所よりも当然厳しいから、覚悟しておいてね。」

無機質であるにも関わらず、それは心に重くのしかかった。

生半可な覚悟で、ゾルディック家に遣える資格はない。

そう言われているようで、それでももう後戻りはできないのだからと、背筋を伸ばして『はい』と返事を返した。


不意に前を向けば、小さな人影が見えた。

杖を持った、まだ少しあどけなさが残る少女。

黒い執事服をキッチリ着こなして、こんな子供でも仕事をこなしているのかと、少し驚いた。

イルミを見るなり頭を下げて、顔を上げるとちらりとこちらを一瞥する。

「彼が、新しい使用人。執事室までの案内は任せたよ。」

「かしこまりました。」

イルミはようやくこちらを振り向いたかと思えば、『それじゃ』とお粗末な言葉を返した。

「あの、」

そんな彼を引き止めて、でも立ち止まらない彼の背中に声をかける。

「お嬢様を、よろしくお願いします!!」

イルミは何も言葉を返さなかったけれど、それに応答するように軽く手を振り、それが嬉しくて、『ありがとうございます』と絞り出すように呟いた。


□■□■□■


…執事室は、部屋と言っても屋敷のような作りで、一瞬ここが本邸なのではないかと思うくらい立派だ。

と言うのも自分の勤めていた屋敷と同じくらいの広さなのだから、そう思うのも無理はないのかもしれない。

『どうぞ』と扉が彼女の手によって開かれ、軽く会釈をしつつ、中に入った。

…刹那、こちらに向けられる一瞬の殺気。

瞬時にいつもは細めている目を開いて、自分に向かってくる"何か"を抑えるべく、咄嗟に手でそれを掴もうとする。

しかし、握ってもギュルギュルと音をたてて、勢いが弱まらないそれに表情を険しくさせ、バッと力を入れて弾き飛ばす。

先程の勢いを無くし、床に落ちたそれは、何の変哲もないただのコインだった。

「…20点だな。」

前方からの声に顔を上げ、相手を凝視する。

「それくらいの攻撃くらいすぐかわせ。今のが本物の敵からの攻撃であった場合を想定しろ。そんな基本もわからないようならすぐに死ぬぞ。」

眼鏡をかけた、おそらく自分より年上の男性。

眼鏡を右手の中指で押し上げ、鋭い目つきで睨むようにこちらを見据えている。

威圧感に冷や汗を流し、それでも相手からは目を離さないようにした。

「貴方は?」

「ここの執事長を勤めているゴトーだ。」

「…執事長。」

なるほど、確かに彼のオーラにはそれ相応の力が見受けられる。

相当の実力者の筈だ。

だが、ここで呑まれてはいけないと息を吐き出し、いつものように笑みを浮かべた。

ゴトーはそれを気に入らなそうに顔をしかめていたが、構わない。


…元々、ここで彼らのやり方に合わせるつもりなど、初めからないのだから。

「…失礼しました。これからお世話になります。ヴァトラー=ウォーレンスです。」

そう言って、上辺だけの挨拶を相手に返した。








手荒い歓迎
(新たなスタートであると共に)
(波乱の余興)


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