『執事業務日記』
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…試しの門は、4の数字で開く。
自分より先に入ったイルミが、『まあまあだね』と少し厳しい評価をした。
苦笑を漏らして、進む彼の後に続く。
ククルーマウンテン全てがゾルディック家の敷地。
改めて見ると、想像していた以上にそれは広大で、この暗殺一家がどれだけ力を持っているかがわかる。
生い茂る木々、生き物たちの声、高い死火山。
あまり見慣れないその風景は、見ていて何だか新鮮だった。
「…一応言っておくけど、」
こちらを向かず、イルミは淡々と言葉を発する。
「うちは、あいつの所よりも当然厳しいから、覚悟しておいてね。」
無機質であるにも関わらず、それは心に重くのしかかった。
生半可な覚悟で、ゾルディック家に遣える資格はない。
そう言われているようで、それでももう後戻りはできないのだからと、背筋を伸ばして『はい』と返事を返した。
不意に前を向けば、小さな人影が見えた。
杖を持った、まだ少しあどけなさが残る少女。
黒い執事服をキッチリ着こなして、こんな子供でも仕事をこなしているのかと、少し驚いた。
イルミを見るなり頭を下げて、顔を上げるとちらりとこちらを一瞥する。
「彼が、新しい使用人。執事室までの案内は任せたよ。」
「かしこまりました。」
イルミはようやくこちらを振り向いたかと思えば、『それじゃ』とお粗末な言葉を返した。
「あの、」
そんな彼を引き止めて、でも立ち止まらない彼の背中に声をかける。
「お嬢様を、よろしくお願いします!!」
イルミは何も言葉を返さなかったけれど、それに応答するように軽く手を振り、それが嬉しくて、『ありがとうございます』と絞り出すように呟いた。
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…執事室は、部屋と言っても屋敷のような作りで、一瞬ここが本邸なのではないかと思うくらい立派だ。
と言うのも自分の勤めていた屋敷と同じくらいの広さなのだから、そう思うのも無理はないのかもしれない。
『どうぞ』と扉が彼女の手によって開かれ、軽く会釈をしつつ、中に入った。
…刹那、こちらに向けられる一瞬の殺気。
瞬時にいつもは細めている目を開いて、自分に向かってくる"何か"を抑えるべく、咄嗟に手でそれを掴もうとする。
しかし、握ってもギュルギュルと音をたてて、勢いが弱まらないそれに表情を険しくさせ、バッと力を入れて弾き飛ばす。
先程の勢いを無くし、床に落ちたそれは、何の変哲もないただのコインだった。
「…20点だな。」
前方からの声に顔を上げ、相手を凝視する。
「それくらいの攻撃くらいすぐかわせ。今のが本物の敵からの攻撃であった場合を想定しろ。そんな基本もわからないようならすぐに死ぬぞ。」
眼鏡をかけた、おそらく自分より年上の男性。
眼鏡を右手の中指で押し上げ、鋭い目つきで睨むようにこちらを見据えている。
威圧感に冷や汗を流し、それでも相手からは目を離さないようにした。
「貴方は?」
「ここの執事長を勤めているゴトーだ。」
「…執事長。」
なるほど、確かに彼のオーラにはそれ相応の力が見受けられる。
相当の実力者の筈だ。
だが、ここで呑まれてはいけないと息を吐き出し、いつものように笑みを浮かべた。
ゴトーはそれを気に入らなそうに顔をしかめていたが、構わない。
…元々、ここで彼らのやり方に合わせるつもりなど、初めからないのだから。
「…失礼しました。これからお世話になります。ヴァトラー=ウォーレンスです。」
そう言って、上辺だけの挨拶を相手に返した。
手荒い歓迎
(新たなスタートであると共に)
(波乱の余興)
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