『捧げ物』

□そうして、今日という日が終わりを迎える
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※コラボにつきまして、名前変換なし










「…またやってしまいました。」

目の前に広がる死体の山。

路地裏でのこの行為は、日課になりそうで少々恐ろしくもある。

地濡れたナイフをハンカチで拭き取り、掌からその姿を隠す。

返り血を浴びたシャツは大きな赤い斑点模様を描いていた。

白昼の中、人通りの少ない路地裏。

誰かに気づかれる前にこの場を離れなければならない。

いつものことだ、それは仕方のないこと。

カツカツと足音をたて、赤い足跡を残す。

いつもの人気のない通りに出て、シャツを買う。

そうして帰ろうとしていたのに。

路地裏から出ようとした時、自分の向かいから人影。

思いもしない状況に、目を見開いた。

相手は女性というにはどこか幼い雰囲気を醸し出す少女。

買い物の帰りだろうか、手には食材の入った袋を持っている。

相手も此方の様子を驚いたようにまばたきを繰り返す。

思わぬ誤算だ。

咄嗟に先程の場所に戻ろうと後ろを振り返れば、何やら騒がしい人の声。

引き返すことはできないらしい。

足跡を残してしまったから、間違いなく此方に向かってくる筈だ。

どうしたものだろうかと柄にもなく頭を抱え、目の前の少女を見据える。

困惑気味に見つめる彼女の瞳。

仕方ないかと息を吐き出し、いつもの笑みを浮かべた。

「…失礼します。」

「え?」

相手を気遣う余裕はない。

彼女の身体を横に抱え、地面を蹴って建物の上へと飛び乗った。

「すみません。少々面倒なことになっていまして。」

流石に足が地につかない不安からか、少女はギュッと腕を首に巻きつける。

こんな時も笑う自分が、不謹慎であるのは従順承知だ。

「家はどちらです?お送りしますよ。」

この状況でよくいう。

一般人なら泣いて降ろせと騒いだに違いない。

しかし故意であったにせよ、彼女を巻き込んでしまったことに少なからず罪悪感があった。

少女は少し顔を上げ、『…あのマンションの14階です』と申し訳なさそうに建物を指差す。

動じない彼女の冷静な反応は少し気になったが、とりあえず目的地に向かい、力強く屋根を蹴った。

…勿論、一緒にいた黒い猫のような彼女の存在も忘れずに。


□■□■□■



「…つきましたよ。」

そう言って、彼は自分の身体をベランダに降ろす。

抱えられていた時間はさほど長いと言うわけでもないのに、暫くの間足がついている感覚が落ち着かなかった。

「あ、ありがとうございます…。」

今し方奇妙な体験をしたというのに、頭は冷静で、それよりも袋の中の卵が割れていないかなどとくだらないことを考えてしまう。

「手荒なまねをして本当に申し訳ありません。此方も余裕がなかったもので…。」

「…お仕事、だったんですか?」

返り血を浴びたシャツを見て、不謹慎だと思いつつ、そう問うてみる。

「いえ、そういうわけではないのですが、なんと言いますか…。まあ、趣味のようなもので。」

人殺しが?とでかかった言葉を慌てて飲み込む。

初対面の人に、そこまで問い詰めるのは失礼だと、自分の好奇心にブレーキをかける。

彼は『じゃあ、ボクはこれで』とベランダの手すりに足をかけ、自分は反射的に思わずその手を掴んでしまった。

一瞬バランスを崩し、きょとんと見つめてくる。

理由を訊かれたらどうしようと、内心ヒヤヒヤしたが、無言のまま、彼は自分の言葉を待っていた。

「や、休んでいきませんか?」

考えたくせに結局そんな言葉しか出せない自分につくづく嫌気がさす。

「…いいのですか?」

「はい!お礼もしたいですし、せめてお茶だけでも!!」

「でも、このマンション、使っているのは貴女だけではないでしょう?」

うっ、と思わず息が詰まる。

ベランダの窓が開いていた。

部屋の奥で、シャワーを使用する音が聞こえる。

見知らぬ男を連れ込むなんて、あの人が許す筈がない。

それは、何より自分がわかっていること。

「平気です!説得しますから!!」

「そんなに無理しなくてもいいですよ。」

「でも、」

「お気持ちだけでも充分です。」

笑ってまた背を向ける彼に、もうかける言葉は思いつかない。

フワッと浮いて、今にも落ちようとする彼の身体。

しかし、そんな彼の身体は、見覚えのあるオーラに引き寄せられる。

「「え?」」

重なる声、乱暴にベランダに引き戻される身体。

「…ダメじゃないか◇知らない人を家に入れちゃ◆」

仰向けに倒れる彼を覗き込む、大きな影。

窓側であるにも関わらず、恥ずかしがることもなく腰にタオルを巻くだけの彼の姿は、一向になれない。

「これは、どういうことでしょうか?」

苦笑して、誰に問うわけでもなく漏らす。

「!あの、ヒソカさん!この人はその、買い出しの帰りにお世話になって、それで…!!」

慌てて弁解の言葉を述べようとしたら、頭にポンと彼の手が乗せられる。

口を噤めばこの師はまた掴みどころのない笑みを浮かべ、まるで全てわかっているかのように彼を見据える。


「久しぶりだね、レイレ◆元気にしてたかい?」


□■□■□■


ヒソカから拝借した大きめのシャツ着て、肩にタオルをかけ、まだ水気の残る髪を手櫛で整える彼…、レイレの姿をジッと見つめた。

話を聞くと、彼はヒソカの数少ない友人らしく、本日はストレス発散という名の殺人をしてきた後だったという。

近道だと思ってあの路地を通ろうとした私に会ったのは本当に偶然だった。

「…ヒソカの弟子?それはまた、気まぐれな貴方が珍しいこともあるものですね。」

「そういうキミは今日も派手にやってきたみたいだね◇スゴくイイ目をしてるよ◆」

他愛もない会話、他愛もないやりとり。

しかし、こちらはどうも落ち着かない。

「あの、レイレさん?」

「?何でしょう?」

『あ、紅茶美味しいですよ』と賞賛され、『ありがとうございます…』と返すが重要なのはそこではない。


「…シャツの中、何か着ませんか?」

シャワーから上がってきて気がついた。

彼、いや彼女だ。

ヒソカのシャツを着た彼女は思っていたより細身で、驚く程の女性体型。

一瞬見間違いかと思った。

随分紳士らしくて優しいし、笑顔が素敵な好青年。

失礼だと思いつつ、着替えを終えたヒソカにこっそり訊いてみると『正真正銘の女の子だよ◇』という回答。

衝撃を隠せなかった。

いや、まず男がいるこの空間でその格好はどうなのだろう?

「別に気にしませんから。」

「いや、」

そういうことではなくて…。

首を傾げるレイレ。

不意に目の前を通過するノアにチッチッと舌を鳴らすと、何故か彼女は威嚇されていた。

少し驚いて瞬きをしつつ、苦い表情を浮かべる。

「嫌われちゃったみたいだね◇」

「ヒソカに言われたくありません。」

皮肉や嫌みを言い合って、その癖楽しそうに接する2人。

何気ない会話も、みんな笑い話なんじゃないかと思うくらい凄く楽しそうで、


…なのに何故だか胸が苦しくなった。



部屋に響く携帯の着信音。

自分も聞き慣れたそれは、ヒソカの携帯から発せられている。

会話を中断させ、レイレは『どうぞ』とヒソカに電話に出ることを勧めた。

さほど時間をかけず、2分足らずで終了した電話。

「…ゴメン◆ちょっと外出てくるね◇」

「え!?」




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