『大好きな嘘』2
□55
1ページ/1ページ
シャワーから上がったら、一瞬彼女の姿が見えなくて少し不安になった。
冷静になれば、彼女の気配はちゃんとあって、ホッと息をつくと、奥の寝室に足を運ぶ。
借りたホテルのダブルベットの真ん中で、彼女はずっと窓の外を見つめていた。
一糸纏わぬ生まれたままの姿を月に晒し、その切なげな横顔が、酷く妖艶に見える。
こちらの気配に気づいたのか、ゆっくりと振り向き、いつもの笑みを浮かべた。
「…何を考えていたんだい?」
「いえ、なんだか今日1日いろんなことがあったから、少し落ち着かなくて…。」
ヒソカはベットの縁に腰かけると、彼女を手招きし、その手を引いて、自分の腕の中に閉じ込める。
レイレはヒソカの胸に耳を当て、そっと目を閉じた。
「…ヒソカの胸の音は、聞いててすごく落ち着きます。」
「そう?」
「温かくて、力強い音…。」
トクンッ、トクンッ…。
一定間隔の心臓の音に薄ら笑みを浮かべ、レイレはヒソカの腕から逃れると、彼の上に膝立ちになって少し高い位置となったそこから、顔を覗き込んだ。
「…好きです。」
真っ直ぐな目でそう伝えるレイレ。
ヒソカは彼女の後頭部を押さえて、唇を重ねた。
熱い吐息の交換と、お互いの舌の感触。
苦しそうに息をするレイレに気づいて唇を離せば、厭らしく銀色の糸が引く。
熱っぽい彼女の瞳と、ほんの少し染まる頬。
ズクリと下半身が疼くのを感じた。
彼女の身体をベットにそっと倒し、頭から足の先まで彼女のキレイな身体を舐めるように見つめる。
そうして、彼女の左胸に視線を向けた。
「これか…◆」
真っ赤な、蝶が白いレイレの身体に羽を広げている。
ツッと指でそこをなぞれば、彼女は苦しそうに顔を歪めた。
『嫌いなんです』
『赤い、蝶が』
いつだったか、彼女がそう言って怯えていた気がする。
不安げな表情をする彼女に軽いキスを落として、ニッコリと微笑む。
「大丈夫◇キミは充分キレイだよ、レイレ◆」
そう言って、首筋に吸い付けば、ピクリと彼女の身体は反応する。
「…怖い…?」
忘れていたわけではない。
レイレだって女だ。
初めての行為に、不安にならない筈がない。
ヒソカの問いに少し間をあけて、首を横に振り、ヒソカの首に腕をまわす。
「…平気です。」
彼の頭を引き寄せて、耳元で囁く。
「ヒソカだから、怖くはありません。」
少し目を見開いて、『そう◆』と小さく答える。
「優しくするよ◇」
「…嘘ばっかり。」
悪戯っぽく笑う彼女の余裕を崩したくて、先程よりも激しいキスをした。
はらりと落ちた腰のタオルを気にすることなく、続ける激しい行為は、優しいというのにはほど遠い。
それでも、お互いに甘い疼きに酔いしれ、快楽の海に呑まれる。
「ヒソ、カッ…、ヒソカ…ッ!」
「ッ、レイレ…!!」
愛しいと、離れたくないと。
不安も恐怖も打ち消して、お互いにただ夢中になって名前を呼んで、
もう、失わないようにと。
1人にならないようにと。
「…愛してる◇」
そんな奇術師の言葉を聞いて、彼女は柔らかい笑みを浮かべ彼の頬に手を伸ばす。
「ボクも、」
"貴方を愛しています"。
熱い口づけで返されて、同時に身体中に渡る熱い感覚に、声を漏らして、シーツを強く握りしめた。
こんなボクを、愛してくれる貴方を、
こんな嘘つきを、"好きだ"と囁くキミを、
…狂おしいくらい、愛してやまない。
NEXT.