『大好きな嘘』2

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第一印象は、お世辞にも良いと言えるものではない。

一般のお嬢様とはかけ離れた彼女の印象などそんなものだ。

どこの世代に返り血を浴びて人を出迎えるお嬢様がいるだろうか、その時の自分は素直に驚いたものである。

光のない、虚ろな目。

あまり光の似合うような顔ではなかった。


…回数を重ねて彼女に会いに行くようになった。

始めは仕事に失敗したことに怒られたものだ。

"殺せなかった"のではなく、不覚にも"殺したくなかった"というのが事実で、別にその時情が移ったとかそういうことではなく、ただの彼女への好奇心だったのだと思う。

その気になればいつでも殺せるのだと、自分の考えを正当化した。

自分が如何に愚かか思い知らされる。


いつからか呼び方が"イルミ君"から"イルミ"に変わった。

年上を敬えと、少し注意すると、『気をつけます』と笑顔で答えて、あの嘘つきは一度としてそれを実行したことはない。

自分が来るとヘラヘラ笑い、明るく振る舞って、正直平気で人を殺す奴には到底思えない。

けれど、結局彼女も人間で、何か辛いことがあった時は部屋でうずくまって動かないこともあった。

そうしたら、決まって自分はその背中を撫でる。

彼女は顔を上げて苦しそうに笑う。


『イルミがいてくれるから、辛くありません』


内心はどうなのかは知らない。

けれど、自分が知る限り、あの部屋にいた彼女が泣くことは一度もなかった。


…なのに、

ハンター試験終了から暫くしたあの日、雨に濡れながら彼女は泣いていた。

その時感じたのは、彼女を苦しませるヒソカへの怒り、

そして、彼女への罪悪感だった。

自分が、彼女をあそこから無理矢理連れ出さなければ、こんなに苦しむことはなかった筈だ。

ヒソカの性格を知りながら、彼女を彼に近づかせた自分が悪い。

自己嫌悪に浸って、自分と出会わなければ良かったのではないかと、彼女が自分を内心忌々しく思っているのではないかと、少し不安になった。


『イルミは、ボクと出会ったことに後悔をしたことありますか?』


その言葉を聞いた時、何を馬鹿みたいに考えていたのだろうと自分を謙虚した。

結局、彼女も自分と同じようなことを考えていて、同じ不安を感じている。

彼女のことばかり気遣うそれは、過保護な父親と何ら変わりない。




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