『大好きな嘘』2
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『イルミ』
…もう、何度も聞いたレイレの声が、頭の中を往復する。
彼女が招待状を渡した日から2週間がたったが、仕事にも身が入らず、イルミはその間ずっと部屋に籠もっていた。
あんな狭い場所に閉じ込められるレイレの心境は、そんなことしてもわからないけれど、少しだけ心が救われる気がするから。
『ハンター試験、ですか?』
『…イルミは優しいですね』
『辛くはありませんよ。イルミがいてくれるんですから』
…救われたのは、むしろ自分だった。
レイレの存在が、自分の中で大きくなって、隣にいることが当たり前になっていた。
殺し屋に友達なんて、必要ないのに…。
不意に、ノックもなしに部屋の扉が開く。
ゆっくりそちらに目を向ければ、少し怒ったような、シルバが立っている。
「いつまでそうしてるつもりだ?」
2週間仕事も何もせずに部屋に籠もっていたから当然だ。
このままじゃ、あのミルキ以下になるなと、他人事のように考える。
「…キルのことを、言えたものじゃないね。」
窓の外に目を向けて、ポツリと呟く。
「レイレは…、あの馬鹿は本当は死ぬのが怖いんだよ。」
いつも自分に来るであろう死の恐怖に、1人で脅えていた。
「なのに、馬鹿みたいに笑って自分の心中悟られないようにして、」
「本当は、誰かに縋りたいんだ。」
…オレは、友達として頼りなかったかな、レイレ。
結局、最後は孤独を選ぶ。
それが、最善の選択だと、わかっているから。
自分にとっても、イルミにとっても。
だから、余計に腹立たしい。
「情けない…。」
ギュッと拳を握って弱々しく漏らす。
シルバは、内心驚いていた。
家族と仕事にしか執着しないイルミが、たった1人の、あの女のことにこんなに躍起になるなんて…。
「お前は、どうしたいんだ。」
「…助けたいよ。」
宿命からも、魂からも、レイレの重荷になるものを何もかも解放して、自由にしてあげたい。
でも、それが正しいことかどうかは、正直わからない。
だから、苦しいんだ。
「仕事は、すぐにでも受ける。」
軽い謝罪の言葉を口にして、部屋を出ようとした。
「…いや、お前は当分休め。」
「は?」
シルバの予想外の言葉に、思わず間抜けな声をあげる。
再び向き合ったシルバはフッと笑い、イルミの頭にポンと手を乗せた。
「まだ時間はある。迷う必要はない。友達なんだろう?」
何もかも見透かされているようだった。
「けじめをつけてこい。」
こんな時に、背中を押してくれる父の存在が酷くありがたく思う。
「…ありがとう。」
少し、胸が軽くなった気がする。
うっすら笑みを浮かべ、イルミは部屋を出た。
まだ、時間はある。
それまでに、自分が出来ることを。
イルミは手にした携帯の登録されている番号に電話をかけた。
さほど時間をかけずに、相手は電話に出る。
「…やぁ。今暇?ちょっと話したいことがあるんだけど…。」
レイレがどう思おうが関係ない。
必ず、救ってみせるから。
イルミは通話を終えた携帯を強く握り締め、前へと進む。
ディスプレイには、不本意にも"ヒソカ"というたった3文字の名前が、残されていた。
…8月30日まで、あと1週間。
NEXT.