『大好きな嘘』2
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「…魂と人格は別物なんです。」
夕日を目の前に、彼女は呟いた。
「魂は初代のもの、けれど結局他は今のボクのもの。どうせなら、何もかも初代のものであったなら良かったのに…。」
そうすれば、こんなに自分が苦しむことはなかったから。
「嫌な宿命です。自ら死を選ばないといけないなんて。」
先程男につけられた傷はいつの間にか消えていた。
"呪われた娘"。
これで全てわかった。
彼女が本を狙う理由も、その意図も。
「…すまなかったな。」
自然と漏らした謝罪の言葉に、レイレは首を傾げる。
「不謹慎だった…。」
自分の言葉が彼女を傷つけたのではないかと柄にもなく思った。
本当の話だとは想定できず、ましてや本人の話だと誰が思うだろう?
「信じちゃうんですか?ボクの話。」
「あぁ。」
「他人なのに。泥棒さん案外優しいんですね。」
ハハッと力無く笑い、レイレはずっと遠くを見つめる。
どこを見ているのかわからない空虚な眼差し。
「生きることは、出来ないのか?」
今まで通りに、と言いかけると、レイレは不意に吹き出して、腹を抱えて笑いだした。
ふざけているつもりはないのにと、軽く睨みつければ、『すみません』とまだ笑いをこらえる謝罪の言葉が返ってくる。
「友人にも、同じようなことを言われたもので…。」
少し寂しい表情は何を表しているのだろう。
深く問い詰めることはせず、何となくそう思った。
「終わりにしたいんです。」
罪を重荷に、この世に存在する彼女を救って、
「ボクで最期に、死の輪廻を終わりにしたいと思います。」
それが、最善の選択だと思うから…。
レイレの覚悟は確かなものだろう。
それが、彼女の執念。
今まで生きてきた意味。
手元に持つ本を見つめ、暫く思案すると息をつき『負けたよ』と、彼女にそれを手渡した。
目を丸くして、凝視するレイレは、本とこちらを交互に見て、驚愕する。
「…いいんですか?」
「返してくれるんだろ。お前を少し信用してみるよ。」
レイレは少し躊躇しつつも、その本を受け取り、大切そうに胸に抱えた。
「…最後に1つ、訊いていいか?」
その言葉に首を傾げつつ、それでも彼女は快く頷いてくれる。
「あれほどの力を持ちながら、何故オレを殺してでも本を奪おうとしなかった?」
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